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3Dプリンターの家、国内初の土を主原料としたモデルハウスが完成! 2025年には平屋100平米の一般販売も予定、CO2排出量抑制効果も期待

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3Dプリンターの家、国内初の土を主原料としたモデルハウスが完成! 2025年には平屋100平米の一般販売も予定、CO2排出量抑制効果も期待

熊本県山鹿市にある住宅メーカーLib Work(リブワーク)が、土を主原料とする3Dプリンター住宅のモデルハウスの第1号「Lib Earth House “modelA”」を2024年1月に完成させた。今まで日本で開発されてきた3Dプリンター住宅はコンクリート造のみで、土を原材料とした3Dプリンターの家は国内初となる。2025年には100平米の平屋での一般販売も予定しており、ゆくゆくは火星住宅建築プロジェクトを目指しているのだとか。実物を体感しに、同社の「Lib Work Lab(リブワークラボ)」を訪れた。

国内初、土が主原料の3Dプリンターの家が誕生3Dプリンターモデルハウス 「Lib Earth House “modelA”」の広さは約15平米。斜め格子の模様の入った壁は、上にいくほど模様が薄くなっている。3Dプリンターでデータをコントロールしながら出力することで実現した(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

3Dプリンターモデルハウス 「Lib Earth House “modelA”」の広さは約15平米。斜め格子の模様の入った壁は、上にいくほど模様が薄くなっている。3Dプリンターでデータをコントロールしながら出力することで実現した(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

住宅メーカーLib Work(リブワーク)は、熊本県山鹿市に本社を置き、一戸建ての企画・施工・販売を中心に行っており、福岡・佐賀・大分・千葉・神奈川などでも事業を展開している。住宅の資材調達から完成までに排出される温室効果ガスの量をCO2として数値化し、住戸ごとに可視化する「カーボンフリット」の導入や、断熱材に新聞紙を再利用したセルロースファイバーを標準採用していたり、国産木材の使用比率を98%まで高めるなど、SDGsに対する取り組みも積極的に行っている企業だ。「3Dプリンター住宅の開発もその一環」と代表取締役社長の瀬口 力(せぐち・ちから)さんは話す。

「昔と比べて住宅は性能が上がってきていますが、僕らが子どものころに夢見たような“21世紀の家”というと、なかなか登場しない。そんななか、3Dプリンターを使った家づくりは、住宅業界にイノベーションを起こすものです。住宅業界では今までもCGやVRといったデジタルの活用はされてきましたが、家そのものをつくるということにはデジタル化ができていませんでした。2年前から計画し、今回ようやく完成した約15平米の3Dプリンター住宅のモデルハウスは、建築DXへの小さな一歩です」

3Dプリンターの家の特徴といえば、まずは自由な造形だ。今回のモデルハウスも、人間の手ではつくれない斜め格子の模様の入った円形フォルム。
工期の短縮ができるのもポイントで、今回の土壁は約2週間で完成。ただし、3Dプリンターを24時間フル稼働させれば施工時間は合計72時間で完成するとのことだ。
ほかにも、3Dプリンターが建築を自動で行うため、人件費が少なくてすむというメリットもある。

「ここ熊本においては、熊本地震後の対応と、コロナ禍に一戸建て需要が急増し、大工さんなどの職人不足が深刻でした。今はいったん落ち着いてはいますが、長期的にみると、職人さんの高齢化もあり、10年、20年後には3分の1にまで減ってしまうでしょう。にもかかわらず、有効な施策が出ていない状況です。そのなかで、3Dプリンターは一つの重要な役割になってくるのではないかと期待しています」

今回使用したのは海外製のプリンターで、型枠を使わずに立体成形ができるタイプのもの(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

今回使用したのは海外製のプリンターで、型枠を使わずに立体成形ができるタイプのもの(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

3Dプリンター出力するための工場(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

3Dプリンター出力するための工場(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

主原料の土は日本では昔から親しまれてきた材料で、吸湿性にも優れる。高温多湿な日本の気候風土にもぴったり。写真は3Dプリンターでテスト出力したものを1日乾かしたもの。すでにガチガチに固まっていた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

主原料の土は日本では昔から親しまれてきた材料で、吸湿性にも優れる。高温多湿な日本の気候風土にもぴったり。写真は3Dプリンターでテスト出力したものを1日乾かしたもの。すでにガチガチに固まっていた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

そして何より特筆すべきなのは、自然由来の素材を中心に使用していること。今まで国内で登場してきた3Dプリンターの家は、すべてがコンクリートやモルタルを中心に使っているなか、国内初の試みだ。土70%、もみがら、藁、石灰などその他の自然素材と一部セメント(※)を配合し、3Dプリンターで壁を出力している。

※セメントは粘土や石灰岩を粉末にし、水や液剤を混ぜて硬化させたもの。セメントに水と砂を加えるとモルタルになり、さらに砂利を混ぜるとコンクリートになる。

「強度を出すために若干セメントを使用していますが、さらに環境にやさしい再生セメントへの代替を検討しています。ゆくゆくは限りなく比率をゼロに近づけられるよう減らしていきたい」と瀬口さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「強度を出すために若干セメントを使用していますが、さらに環境にやさしい再生セメントへの代替を検討しています。ゆくゆくは限りなく比率をゼロに近づけられるよう減らしていきたい」と瀬口さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

なぜ土を主原料にすることにこだわるのか。
その背景には、環境への配慮と、持続可能性を追求したいという思いがある。自然由来の資源なので従来の建築に比べて二酸化炭素の排出量を大幅に抑えることができ、再利用可能なので廃棄物も最小限に抑えることができる等のメリットがあるが、耐震性・耐久性については「正直なところ、現在も試行錯誤を続けている」とのこと。

「主原料をコンクリートやモルタルにすれば、耐震性・耐久性は担保しやすい。それでも、今まで住宅業界で建築時や解体時の二酸化炭素の排出が課題になってきたなか、脱炭素社会を目指す今後の家づくりでそこを追求しないのは本末転倒。3Dプリンター住宅への挑戦の意味はそこにもある。今回、世界中をまわって見つけた方法を採用しています」

今回のプロジェクトは、ロンドンに本社を構え、設計者、アドバイザー、専門家を有し、世界140カ国で持続可能な開発プロジェクトに携わってきたエンジニアリング・コンサルティング会社Arup(アラップ)と協力して行っている。3Dプリンター住宅の開発はヨーロッパが先進だが、今回のプロジェクトにあたっては同社とともに、現地視察や研究を進めてきた。

ちなみに自然素材を活用した3Dプリンターの家といえば、2019年にSUUMOジャーナルでも紹介した、イタリアで3Dプリンターの開発販売を手掛ける企業WASP社による、通称ライス・ハウス(米の家)「GAIA」がある。建築現場で手配できる土などの原料は、加工費や運搬費がかからず、紹介当時で材料費はたったの900ユーロ(約10万円)だった。

「Lib Earth House “modelA”」も同様のメリットが想定される。価格については、現状では上記の耐久性・耐震性の経過観察の問題から「現状では価格設定が行えない」段階とのことだが、日本の住宅業界がどう変わっていくのか楽しみになる話だ。

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住み心地はどうなる? 断熱性や耐震性は?

コスト、工期、環境配慮などの面においてメリットがあることは理解した。そこで気になるのは住み心地。耐震性・耐久性に課題はあるとしつつ、2025年には一般発売もされるとのことで、今後はどうなっていくのだろうか。

「現段階では、正直なところ、パーフェクトとは言えない。耐震性・耐久性、耐水性、断熱性については 、今後時間をかけてこのモデルハウスでモニタリングを行っていきます」(瀬口さん)

建築確認申請が必要なエリア外で建築したため申請は行っていないが、「建築基準法の条件はクリアしている」とのこと。基礎部分は従来の住宅と同様に行っている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

建築確認申請が必要なエリア外で建築したため申請は行っていないが、「建築基準法の条件はクリアしている」とのこと。基礎部分は従来の住宅と同様に行っている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「耐震性能は等級3(最も高い耐震性能)が目標ですが、まずは1(※)を取得します。シミュレーション上は耐震性能に問題がなく、今回のモデルハウスは建築確認が不要エリアで確認は行っていませんが、今後は他のエリア進出にあたってクリアにしていかなければならないところです。壁くずれや耐水性についても何度もシミュレーションを行い、すべて問題ないという判断をしていますが、まだ他の季節を経験していませんから、季節の寒暖差などによる変化などはきちんと見ていきたいです」

※耐震等級:建物の地震に対する強さの評価基準は耐震等級1~3の3段階あり、等級1は数百年に一度程度の地震(震度6強から7程度)に対しても倒壊や崩壊しないとされているが、倒壊の可能性はゼロではない

屋根の施工中の様子。現時点では屋根はシート防水(樹脂製)を施しているが、今後は屋根も3Dプリンターで出力することを検討している。屋根上に太陽光パネルを載せる計画もある(写真提供/Lib Work)

屋根の施工中の様子。現時点では屋根はシート防水(樹脂製)を施しているが、今後は屋根も3Dプリンターで出力することを検討している。屋根上に太陽光パネルを載せる計画もある(写真提供/Lib Work)

壁の表面にはヒビ割れがあったが、「強度には問題がない」とのこと。今後は塗装などで対応を検討していく(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

壁の表面にはヒビ割れがあったが、「強度には問題がない」とのこと。今後は塗装などで対応を検討していく(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

3Dプリンターで出力した土壁のほかに、ドア部分や柱などに木材(集成材による門型フレーム)を使用。ここにも自然素材にこだわり、住み心地のよさを追求している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

3Dプリンターで出力した土壁のほかに、ドア部分や柱などに木材(集成材による門型フレーム)を使用。ここにも自然素材にこだわり、住み心地のよさを追求している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

組み立て図(画像提供/Lib Work)

組み立て図(画像提供/Lib Work)

窓には断熱性が高いとされる木製サッシを使用(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

窓には断熱性が高いとされる木製サッシを使用(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

玄関ドアは顔認証で管理(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

玄関ドアは顔認証で管理(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

断熱については、壁の間に3Dプリンターでの出力時に空洞をつくり、そこに2種類の断熱材をそれぞれ入れた箇所と、あえて空洞のままにした箇所をつくり、季節ごとの室内温度のモニタリングを行う。1種類は住宅の断熱材としておなじみの、新聞紙などを主原料にしたセルロースファイバー。もう1種類は自然素材であるもみがらだ。

取材当日の気温14度(曇り)と少しだけ肌寒いくらいだったが、「実験段階」とは言いつつ、暖房なしでも入った瞬間に明らかに暖かさを感じた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

取材当日の気温14度(曇り)と少しだけ肌寒いくらいだったが、「実験段階」とは言いつつ、暖房なしでも入った瞬間に明らかに暖かさを感じた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

断熱材は、3Dプリンター印刷時につくった空洞部分に入る(写真提供/Lib Work)

断熱材は、3Dプリンター印刷時につくった空洞部分に入る(写真提供/Lib Work)

2025年には100平米の一般住宅を販売予定。ゆくゆくは宇宙進出も!

2024年内にはLDK・トイレ・バス・居室などを設けた広さ100平米の3Dプリンターモデルハウス(平屋)を完成させ、2025年には一般販売を目指している。今回完成したモデルハウス同様の15平米のものも一般発売を予定していて、グランピング施設やサウナ施設などに使うことを想定しているという。

ハウスメーカーや工務店とフランチャイズでの全国展開も視野に入れているといい、共同で地域ごとの土の違いや、地域特有の気候を考慮した研究も進めていきたいとのこと。
「今回のモデルハウスでは、実験検証がしやすい淡路島産のものを使用していますが、今後はその地域ごとの土にあわせて素材を開発していくのが目標です」(瀬口さん)

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そして、最終的には「3Dプリンターによる火星住宅建築プロジェクト」を目標に掲げている。
「火星現場にある素材を使うことで、地球からの資源の運搬を最小限にとどめられるため、大幅なコスト削減を見込めます。また、プログラミングされたロボットによる施工もでき、短期間での施工も期待できます。なにより、宇宙規模でサステナブルな開発が進められるのがメリットです」と意気込む。

「3Dプリンターによる火星住宅建築プロジェクト」イメージ(写真提供/Lib Work)

「3Dプリンターによる火星住宅建築プロジェクト」イメージ(写真提供/Lib Work)

3Dプリンター住宅の一般向け発売については、日本国内でも数年以内に実現されるだろうとすでに話題になっている。そのなかで、自然素材を使ったもの、さらに100平米は前代未聞。まだ経過観察段階ではあるが、日本でも昔からなじみのある土壁による住宅が、高い耐震性と断熱性能をもって未来の家として登場するのであれば、とても感慨深い。

また、今回は工場で出力したものを建築現場で組み立てる工法を採用しているが、技術的には3Dプリンターの機器を現地に持ち込み、現地調達できる自然の材料で家が建てられる点も見逃せない点だ。災害時に仮設住宅として活用したり、木材などの建材を確保するのが難しい地域などでも住宅の建築ができるようになる。宇宙進出よりも近い未来であっても、3Dプリンター技術が住宅業界にもたらす数々の可能性に心躍らずにはいられない。

●取材協力
Lib Work

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金利優遇などお得に!環境配慮型住宅ローンや空き家関連ローンなど、時代のニーズに応じて変化中

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金利優遇などお得に!環境配慮型住宅ローンや空き家関連ローンなど、時代のニーズに応じて変化中

これからの金利の動向が気になる住宅ローンだが、住宅金融支援機構が金融機関に対して、ローンへの取組姿勢などを調査した「住宅ローン貸出動向調査」の最新結果を公表した。金融機関では、住宅ローンについてどんな取り組みをしようと考えているのだろうか?詳しく見ていこう。

【今週の住活トピック】
「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」を公表/住宅金融支援機構

金融機関の7割以上が今後も新規の住宅ローンに積極的に取り組む

住宅金融支援機構の調査に回答したのは、都市銀行・信託銀行、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫などの301機関で、2023年7月~9月に調査を実施した。

新規の住宅ローンへの取組姿勢は、「積極的」という回答が「現状」でも72.1%、「今後」でも同じ72.1%となり、積極的な姿勢に変化はないようだ。積極的に取り組む方策としては、「商品力強化」が63.0%と最多で、2番目の「金利優遇拡充」の41.2%を大きく引き離す形となった。

環境配慮型住宅ローンの取り扱い状況は?

近年は、環境意識の高まりやエネルギー価格の高騰で、エネルギーの消費量を抑える住宅への関心が高まっている。加えて、金融機関でも、SDGsなどの時代の要請を受けて、環境配慮型住宅ローンに取り組む姿勢を見せたいところだろう。

今回の調査で、「環境配慮型住宅ローンの取り扱いの有無」を聞いたところ、「取り扱っている」が32.9%、「取り扱いを検討中」が8.3%となり、いずれも前回より増加した。やはり、取り組む金融機関が増えているようだ。

出典/住宅金融支援機構「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」

出典/住宅金融支援機構「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」

では、どんな「環境配慮型住宅ローン」を提供しているのだろう?

環境配慮型住宅ローンに特に定義はないので、金融機関が同じ名称を使っていても、その内容は金融機関ごとで異なる。調査結果で見ると、「太陽光発電設備、高効率給湯器 、家庭用蓄電池等の省エネ設備を備えた住宅」が75.8%と最多となっている。

出典/住宅金融支援機構「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」

出典/住宅金融支援機構「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」

住宅で使用するエネルギーを抑えるには、第一に、住宅そのものの断熱性能を高める必要がある。外の暑さ寒さに影響を受けにくいようにするためだ。第二に、エネルギーを大量に消費する給湯器やエアコンなどを省エネ性能が高いものにする必要がある。消費するエネルギーを抑制するためだ。第三に、太陽光発電などでエネルギーを生み出す設備や、発電した電気を蓄える設備を設置する必要がある。住宅で使った電気などを、発電した電気でカバーするためだ。

すべてをそろえて、消費するエネルギーをプラスマイナスゼロ以下にする住宅が、ZEH住宅(=ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)だ。すべてをそろえるには費用もかかるので、ハードルが高くなる。また、なかでも高額な設備となるのが、太陽光発電設備だ。

環境配慮型住宅ローンとしては、まず、こうした高額な設備を搭載した住宅を対象に、ローンの優遇をしようという金融機関が多いのが実態のようだ。2番目に多いZEH住宅を対象とするのは、45.5%と半数に満たないが、前回より大幅に増加している。政府がZEH住宅を増やしたいと考えていることを受けてのことだろう。

では、こうした住宅についてどんなローン優遇が受けられるのか?
調査結果を見ると、「金利引き下げ」が90.9%で大半となっている。ZEH住宅や太陽光発電設備・蓄電池などを搭載した住宅、地域木材を利用した住宅、長期優良住宅や低炭素住宅の認定住宅の場合などで、ローンの金利引き下げをする商品が多いということだろう。

具体的な環境配慮型住宅ローンの事例は?

具体的な住宅ローンを見ていこう。
例えば、りそな銀行では環境等配慮型住宅向けの特別金利プラン(名称:SX金利プラン)」を提供している。ZEH住宅、太陽光発電設備設置住宅、長期優良住宅、低炭素住宅、国産木材を一定割合以上使用している住宅、安心R住宅と、かなり幅広く対象としている。どの金利タイプを利用するかでも異なるが、原則、適用金利から0.01%引き下げる。

また、千葉銀行では「サステナ住宅応援割!」(2024年9月30日まで)を展開している。ZEH水準(発電設備等が必須ではない)以上の住宅や低炭素住宅・長期優良住宅などに加え、太陽光発電設備搭載の住宅、免震装置付き住宅を対象にしている。優遇については、適用金利から0.05%引き下げのほか、全傷病団信の上乗せ金利を0.2%優遇、または自然災害時支援特約を付帯するための金利上乗せ分を0.1%引き下げの3つから1つを選ぶ形となっている。

滋賀銀行の「スーパー住宅ローン未来よし」では、太陽光発電、蓄電池、エネファームのいずれかを新たに設置する一戸建てに対して、適用金利から0.05%引き下げる。これは、創エネ・畜エネ設備費用(想定金額300万円)の金利負担を実質ゼロにする想定なのだという。また、マンションでは省エネルギー性能表示制度「BELS(ベルス)」で★3つ以上および同等基準を満たすものも対象とする。

ほかにも、名称はさまざまだが、地球環境に配慮した住宅に対する優遇措置を取っている事例が多数ある。

空き家に関連するローンの取り扱い状況は?

近年は、空き家の増加が懸念されている。金融機関が、空き家解消のために利用できるローン(空き家関連ローン)を取り扱う事例も増えている。調査結果を見ると、ほぼ半数が取り扱う(「取り扱っている48.8%」「取り扱いを検討中」3.3%)と回答している。

資金使途を具体的に見ると、「空き家解体」が93.9%とかなり多く、次いで「空き家活用(リフォーム)」の44.2%、「空き家活用(取得+リフォーム)」の25.2%となった。

出典/住宅金融支援機構「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」

出典/住宅金融支援機構「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」

こちらも具体的な事例を見ていこう。
岩手銀行では、「空き家活用・解体ローン」を提供している。空き家を賃貸するための改修や空き家の解体、解体後の土地の造成や各種設備の設置、空き家の防災・防犯対策などに利用できる。借入額は10万円以上1000万円以内、借入期間は6カ月以上10年以内(1カ月単位)、変動金利で2.5%(提携市町村であれば0.5%引き下げ)などとなっている。

住宅ローンについては、最も気になるのが適用される金利だろうが、各金融機関がそれぞれに特徴のあるローンを用意している。その品ぞろえは、時代のニーズによっても変わるので、環境に配慮した住宅などについては、できるだけ多くの情報を集めたうえで選ぶようにしたい。長期間返済するローンであるだけに、後で知らなかったということのないようにしたいものだ。

※ローンの具体事例の内容については、いずれも執筆時時点(2024/3/1)の情報による

●関連サイト
・住宅金融支援機構「2023年度 住宅ローン貸出動向調査」
・りそな銀行「環境等配慮型住宅向けの特別金利プラン(名称:SX金利プラン)」
・千葉銀行「サステナ住宅応援割!」
・滋賀銀行「スーパー住宅ローン未来よし」
・岩手銀行「空き家活用・解体ローン」

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車椅子での家事動線など追求したら、リノベがバリアフリーの家の最適解だった! 扉ナシ・カウンター下は空間に、など斬新テク満載の共働き夫婦の家

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車椅子での家事動線など追求したら、リノベがバリアフリーの家の最適解だった! 扉ナシ・カウンター下は空間に、など斬新テク満載の共働き夫婦の家

日本には、病気やケガなどで脚部や上肢・胴体の一部を使わずに生活する方が約193万1000人(2016年 厚生労働省 生活のしづらさなどに関する調査)いますが、生活にはどんな不便があり、住宅にはどんなことが求められるのでしょう。マンションをリノベーションし、自分たちらしい住まいを手に入れた30代の夫妻の事例を通して、「バリアフリー住宅×リノベーション」の可能性に迫ります。

「賃貸住宅は自分にとって不便だらけ」。Nさん夫妻がリノベーションを決めた理由

高校時代に事故にあい、車椅子生活になったNさんは、これまで進学・就職・結婚と人生の節目節目で引越しをし、4つの賃貸住宅に住んできました。そこでは、たくさんの不便があったと言います。

「とくに使いにくかったのは水まわりです。洗面やキッチンはシンク下収納棚が設置されているものがほとんどで、車椅子を横づけして体を捻りながら使っていました。車椅子で動き回るのに十分な広さがないため、トイレや浴室のドアは物件によってはオーナーに断りを入れて取り外す必要がありましたし、床との段差が大きい浴槽に関しては、横に台を置けば入浴できる物件はあったものの、その対策が取れず、湯船に漬かるのを諦めていた物件もありました」(Nさん)

Nさんご夫妻(写真撮影/桑田瑞穂)

Nさんご夫妻(写真撮影/桑田瑞穂)

2020年に結婚をし、ひとり暮らし用のワンルームから妻と2人で住める部屋に越してきましたが、車椅子を乗り入れる分、一般的な住宅だと玄関もキッチンも洗面室も窮屈。かといって設備や広さが理想的な物件は、手が出ないほど家賃が高額でした。
賃貸住宅では限界があるということを痛感した2人は、持ち家をリノベーションした方が金銭的にも得策だと考え、自分たちらしいバリアフリー住宅をつくることを決意します。

バリアフリー住宅は、周辺環境に妨げがないことが第一条件

さっそく、物件探しをはじめたNさんご夫妻ですが、そこでは大前提の条件がありました。都心の企業で会社員をしているNさんは、コロナ禍以降、月半分がリモートワークになったものの、残りはマイカー通勤。プライベートでは、電車で出かけることもあります。部屋をスケルトンにした状態からリノベーションすれば、中身はいくらでも変えられますが、周辺環境はそうはいきません。それだけに、「駅から物件までの道筋がフラットであること」「車椅子で乗り降りができる『平置き駐車場』があること」「建物のエントランスがスロープつきであること」が不可欠。ようやく3LDK・約87平米のマンションに出合います。
リノベ会社は「細かい要望にも寄り添ってくれる」と感じたゼロリノベに依頼。事前に希望を書き出して共有したほか、打ち合わせでは、設計担当の前川香織さんに車椅子で日常の動作を再現して見せ、2人にとっての暮らしやすさを確実に落とし込んでもらえるようにしたと言います。

N邸の平面図(画像提供/ゼロリノベ)

N邸の平面図(画像提供/ゼロリノベ)

2人にとっての快適な形を追求し、ストレスのない生活を実現

そうして2022年4月に完成したN邸。1歩中に入ってまず気がつくのは玄関です。ここでは上がり框(あがりかまち)のほかに、車椅子用のスロープを設置。妻とNさんとで二手に出入口を分けることで、2人が一緒に外出・帰宅をしたときに生じがちな混雑を避けられるようにしました。

以前は車椅子に占領されていた玄関が、開放的な空間に。妻は右手の上がり框を、Nさんは左手のスロープを使います(写真撮影/桑田瑞穂)

以前は車椅子に占領されていた玄関が、開放的な空間に。妻は右手の上がり框を、Nさんは左手のスロープを使います(写真撮影/桑田瑞穂)

玄関には傷がつきにくい石材調のコンポジションタイルを使用。Nさんは車椅子を屋外用と室内用とで2台、所有していますが、専用のスペースがあるためラクに乗りかえられます(写真撮影/桑田瑞穂)

玄関には傷がつきにくい石材調のコンポジションタイルを使用。Nさんは車椅子を屋外用と室内用とで2台、所有していますが、専用のスペースがあるためラクに乗りかえられます(写真撮影/桑田瑞穂)

玄関隣には、物干し場を兼ねたウォークインクローゼット。そのまま洗濯機置き場・脱衣室・洗面室・廊下・LDKへと抜けられるため、生活動線としてはもちろん、家事動線としてもスムーズです。

左の白いカーテンの奥がウォークインクローゼット。ぐるりと洗面室に回り、ブルーの壁の出入口から廊下に抜けられます(写真撮影/桑田瑞穂)

左の白いカーテンの奥がウォークインクローゼット。ぐるりと洗面室に回り、ブルーの壁の出入口から廊下に抜けられます(写真撮影/桑田瑞穂)

ウォークインクローゼットは物干し場を兼ねており、隣の部屋に洗濯機があるため、サッと洗濯物を干し、ハンガーに掛けたまま収納することが可能。バーの高さも計算されていて、上は妻、下はNさんが使用中(写真撮影/桑田瑞穂)

ウォークインクローゼットは物干し場を兼ねており、隣の部屋に洗濯機があるため、サッと洗濯物を干し、ハンガーに掛けたまま収納することが可能。バーの高さも計算されていて、上は妻、下はNさんが使用中(写真撮影/桑田瑞穂)

「どの部屋も車椅子が通れる幅でつくってもらっていますが、とりわけ車椅子でUターンや旋回できることが大切でした。そのため、キッチンと洗面室のカウンターは、下部に収納をつくらず開放しています」(Nさん)

カウンター下が開放されたキッチン。料理は主に妻が、洗いものはNさんが担当。換気扇のスイッチはコンロ下に設置しています(写真撮影/桑田瑞穂)

カウンター下が開放されたキッチン。料理は主に妻が、洗いものはNさんが担当。換気扇のスイッチはコンロ下に設置しています(写真撮影/桑田瑞穂)

洗面室は幅・奥行きともに余裕を持たせ、鏡も大きくして2人が並んで使えるように。カウンター下が開放されているので、膝を入れてシンクに正面から身体を近づけたりUターンしたり、のびのびと使えます(写真撮影/桑田瑞穂)

洗面室は幅・奥行きともに余裕を持たせ、鏡も大きくして2人が並んで使えるように。カウンター下が開放されているので、膝を入れてシンクに正面から身体を近づけたりUターンしたり、のびのびと使えます(写真撮影/桑田瑞穂)

さらなるポイントは、扉をなくしたことにあると言います。

「賃貸住宅では、戸棚や部屋に扉があることも問題でした。横にスライドさせる引き戸であればよいですが、ドアだと押したり引いたり、体を屈ませたり。無駄な動きが出るうえ、開く側のスペースにゆとりが必要です。そこでトイレと浴室以外は扉をなくしてオープンに。妨げが解消され、一気にストレスがなくなりました」(Nさん)

N邸は扉がない分、行き来がスムーズ。どこにいても互いの気配を感じられます。げた箱は、以前は扉があるため取り出しにくく、履く靴が限定されていたそう。「扉をなくした分、コストが浮きましたし、しまい込むと持っていることを忘れがちですが、そうはなりません。片づける動機にもなります(笑)」(Nさん)(写真撮影/桑田瑞穂)

N邸は扉がない分、行き来がスムーズ。どこにいても互いの気配を感じられます。げた箱は、以前は扉があるため取り出しにくく、履く靴が限定されていたそう。「扉をなくした分、コストが浮きましたし、しまい込むと持っていることを忘れがちですが、そうはなりません。片づける動機にもなります(笑)」(Nさん)(写真撮影/桑田瑞穂)

廊下沿いには2人で使えるワークスペースが。ここでも机の下を開放しているため、アクセスがよくスムーズに方向転換ができます(写真撮影/桑田瑞穂)

廊下沿いには2人で使えるワークスペースが。ここでも机の下を開放しているため、アクセスがよくスムーズに方向転換ができます(写真撮影/桑田瑞穂)

間仕切り壁を一枚だけ立てただけの、開放感あふれる寝室。あえて日の当たる場所に配置し、生活に溶け込ませました(写真撮影/桑田瑞穂)

間仕切り壁を一枚だけ立てただけの、開放感あふれる寝室。あえて日の当たる場所に配置し、生活に溶け込ませました(写真撮影/桑田瑞穂)

収納はすべてオープン棚にしているN邸ですが、これは妻にとってもメリット。食器などが取り出しやすいうえ、飾って見せる楽しみが増えたとか。ほかにも車椅子のための仕様が、妻にも役立つシーンがあると言います。

「わが家では車椅子でも高さ約37cmの窓からバルコニーに出られるよう、ゆるく勾配させたスロープを、玄関から窓辺まで4.5mの長さで設置しています。これがダイニング脇まで伸びているので、重い食材を台車に乗せて帰ってきたときに、すぐに冷蔵庫にしまえて便利。友人が親子で遊びにきたときは、子どもたちの格好の遊び場になっています」(Nさんの妻)

有孔ボードで間仕切りしたスロープは、小さな部屋のようなこもり感。黒板塗装はご夫妻によるDIY(写真撮影/桑田瑞穂)

有孔ボードで間仕切りしたスロープは、小さな部屋のようなこもり感。黒板塗装はご夫妻によるDIY(写真撮影/桑田瑞穂)

スロープはNさんが登りやすい角度でつくられたもの。窓の高さに合わせて設置しているため、気軽にバルコニーに出られます(写真撮影/桑田瑞穂)

スロープはNさんが登りやすい角度でつくられたもの。窓の高さに合わせて設置しているため、気軽にバルコニーに出られます(写真撮影/桑田瑞穂)

トイレは実際に設計者に車椅子で動き回る姿を見せて、四方のサイズを緻密に計算。手すりも使いやすい位置を確かめてから取りつけました(写真撮影/桑田瑞穂)

トイレは実際に設計者に車椅子で動き回る姿を見せて、四方のサイズを緻密に計算。手すりも使いやすい位置を確かめてから取りつけました(写真撮影/桑田瑞穂)

Nさんが段差のある浴槽に入るときは台が必要ですが、市販品は高額。設計者にコスト面でも見合う「TOTOリモデルWYシリーズ」のベンチつきユニットバスを見つけてもらって解決しました(写真撮影/桑田瑞穂)

Nさんが段差のある浴槽に入るときは台が必要ですが、市販品は高額。設計者にコスト面でも見合う「TOTOリモデルWYシリーズ」のベンチつきユニットバスを見つけてもらって解決しました(写真撮影/桑田瑞穂)

デザインが取り残された家にはしたくないという2人の強い思い

「一般的に福祉用具は、機能性を重視するあまりに見た目が二の次になっているケースが少なくないのではないでしょうか。バリアフリーをうたった賃貸住宅にも、実は同じような物足りなさを感じていました。私たちがリフォームではなく“リノベーション”を選んだのは、住まいを丸ごと好きなテイストにできると思ったのも理由です」(Nさんの妻)

もともと躯体(くたい)に埋め込まれていたインサート(ボルト用の穴)を利用し、天井にルーバーを設置。レールを取りつけ、照明をつるしたりカーテンをつけたりできるようにしました。妻の手づくりブーケが調和しています(写真撮影/桑田瑞穂)

もともと躯体(くたい)に埋め込まれていたインサート(ボルト用の穴)を利用し、天井にルーバーを設置。レールを取りつけ、照明をつるしたりカーテンをつけたりできるようにしました。妻の手づくりブーケが調和しています(写真撮影/桑田瑞穂)

バリアフリー住宅としての実用性を備えているN邸ですが、主張している感じがしないのは、ところどころで採用した趣ある素材や色づかいが、豊かな表情をもたらしているから。デザインにもこだわったことで、極上の居心地を手に入れています。

カフェに行くより、家が一番。リノベーションという選択に大満足

以前の住まいではくつろげるスペースが限られており、よく2人でカフェに出かけていたというNさんご夫妻。しかし今では、家が一番、落ち着ける場所。何も予定のない休日に、のんびり起きて遅めの朝食を取ったり、ソファでまったりコーヒーを飲んだりするのが至福の時間です。

冷蔵庫は上部のものを取りやすい「AQUA」シリーズの低めのタイプを購入。ただそれだけだと収納量が足りないため、横に冷凍庫を並べています(写真撮影/桑田瑞穂)

冷蔵庫は上部のものを取りやすい「AQUA」シリーズの低めのタイプを購入。ただそれだけだと収納量が足りないため、横に冷凍庫を並べています(写真撮影/桑田瑞穂)

「“バリアフリー住宅”というと、大まかな捉えられ方をされがちなのですが、需要は人によって千差万別。せっかくバリアフリーの賃貸住宅を見つけても合わなかったり、リフォームしてもかゆいところまでは手が届かなかったり。それだけに、リノベーションに大満足。私たちの例が必要としている人に届いたら、こんなにうれしいことはありません」(Nさんご夫妻)

Nさんご夫妻が家づくりでもうひとつ課題にしたのが、住まいに可変性を持たせること。寝室はベッドを3台まで置ける広さにし、リビングは将来、一部をキッズスペースにしたり、客室にしたりできるようにしました。
形を変えながら長く住み続けられる住まいで、これからも家族の物語が紡がれていきます。

大きなバルコニーがあったのも、この物件を購入した理由のひとつ。普段づかいができるよう窓辺にウッドデッキを配置。晴れた日は2人で食事をしたりお酒を飲んだりして楽しみます(写真撮影/桑田瑞穂)

大きなバルコニーがあったのも、この物件を購入した理由のひとつ。普段づかいができるよう窓辺にウッドデッキを配置。晴れた日は2人で食事をしたりお酒を飲んだりして楽しみます(写真撮影/桑田瑞穂)

●取材協力
ゼロリノベ

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「SUUMO住みたい街ランキング2024関西版」梅田が西宮北口と大差で3年連続1位に! 本町、尼崎も躍進

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「SUUMO住みたい街ランキング2024関西版」「梅田」が2位「西宮北口」と大きく差をつけ3年連続1位に!「本町」「尼崎」も躍進

リクルートは関西圏(大阪府・兵庫県・京都府・奈良県・滋賀県・和歌山県)に居住している20歳〜49歳の4600人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2024年関西版」を発表した。
どのような街がランクインしたか、結果と併せて街の魅力を探ってみた。

TOP3は3年連続1位「梅田」、2位「西宮北口」、3位「神戸三宮」

1位は大都心部「梅田」、2位は阪神間の人気の街「西宮北口」、3位は神戸市の玄関口「神戸三宮」だった。
トップ3は2022年から3年連続で同じ位置をキープしたが、今年際立ったのが1位の「梅田」の強さだ。2位の「西宮北口」と約300点もの差をつけており、「得点がジャンプアップした街ランキング」でも昨年から100点以上も得点を伸ばして1位に。
「梅田」の人気の高まりがはっきりと結果に出た。

住みたい街(駅)ランキング [1位~20位]

得点がジャンプアップした街(駅)ランキング[1位~10位]

梅田人気はうめきた開発の期待感や高い資産価値が決め手に

「梅田」の人気の背景には、西日本最大のターミナル「JR大阪駅」北側の再開発「うめきた」による街の発展がある。「グランフロント大阪」が誕生した1期開発に続いて「うめきた2期(グラングリーン大阪)」が進行しており、今年9月には一部先行街開きをする予定だ。

グランフロント大阪(写真/PIXTA)

グランフロント大阪(写真/PIXTA)

中でも特に期待が寄せられるのが、大阪駅と直結する都市公園「うめきた公園」の誕生だろう。関西最大のビッグターミナルであるJR大阪駅前に、広大な芝生広場や、美しい曲線を描く大屋根のイベントスペースを設けた巨大公園が姿を現す。周辺にはホテルやオフィスビル、タワーマンションなども続々開業するという、心躍らされる都市プランだ。
住みたい理由としてあげられる街の魅力は、働く場にとどまらない街のにぎわい、文化娯楽施設の充実などだ。
「梅田」を「西宮北口」と年代別で比較すると、20代の支持率が突出して高いのもうなずける。
ビジネスや商業のイメージが強い「梅田」だが、うめきたエリア再開発の波及効果や福島方面や中津方面の再開発により住宅供給が増加。直近10年間でも大阪市北区・福島区で1万5000戸以上の分譲マンションが供給された。
近年、若い人の間で住宅を資産価値として見る層が増えており、住むイメージが希薄だった梅田エリアも、都心居住への憧れの強さに後押しされ、“働き、暮らす街”として魅力を増していると考えられる。

街の魅力項目トップ10 梅田駅

年代別上位3駅の得票率

同時にアンケートをとった「穴場だと思う街(駅)」でも「梅田」が昨年の2位から1位に上昇した。
「梅田」と「穴場」のイメージがマッチしない印象だが、ハイブランドの店舗から昔ながらの飲食街まで多様な顔があることが、“住む街としても見逃せない”という穴場感につながっているのかも。

穴場だと思う街(駅)ランキング

ほかにも得点を上げた街を見てみたい。
「江坂」は昨年の11位から8位にランクインした(310点→342点)。
「江坂」は大阪中心部のオフィス街に直結する大阪メトロ御堂筋線にあり、新幹線停車駅「新大阪」や「梅田」「淀屋橋」に乗り換えなしで行ける。
また、阪急京都線「烏丸」は昨年の15位から12位に(238点→270点)、「本町」は18位から13位(216点→256点)に大きく順位を上げている。
それぞれ京都市、大阪市の中心エリアにあり、商業施設やオフィスが集まる華やかな街だ。
これらの結果を見ても、都心への交通アクセスの良さや商業施設の充実など、利便性の高い街に人気が集まっていることがわかる。

「住みたい自治体」は「西宮市」「大阪市北区」がトップ2

アンケートでは「住みたい自治体」についても尋ねた。
1位は「西宮市」。以下「大阪市北区」、「明石市」、「大阪市天王寺区」、「大阪市中央区」と続いた。

住みたい自治体ランキング [1位~20位]

得点ジャンプアップした自治体ランキング[1位~10位]

「住みたい街ランキング」でトップ2だった街の自治体「西宮市」「大阪市北区」がやはり1位、2位を獲得した。
1位から5位までが昨年と同じ順位だが、昨年との得点差を見ると「大阪市北区」が130点(997点→1127点)と、他の自治体に比べて突出して大きい。
一方、手厚い子育て施策で注目を集める「明石市」は今年も3位をキープし、依然として高い支持を得ている。

「梅田」が利便性や都心への憧れ、資産価値の高さを背景にしているのに対し、「明石市」は市民目線のサービスで注目を集めた。
「明石市」の街の魅力項目には「子育てに関する自治体のサービスが充実している」だけでなく、「介護や高齢者向けのサービスが充実している」「公共施設が充実している(図書館、コミュニティセンター、公民館など)」など、子育て以外の自治体の施策や生活環境の充実も挙げられる。

明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)

明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)

明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)

明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)

年代・ライフステージでは、夫婦+子ども世帯の支持(2位)だけでなく、夫婦のみ世帯(3位)、女性20代・30代(2位)、男性20代・30代(5位)と子育てファミリー以外のさまざまな層からも高く注目されている。
また、「メディアによく取り上げられて有名」という声も多く、自治体の発信力も地元以外でも住みたいと思う人が増える要因になっているようだ。

■関連記事:
子育て支援の“東西横綱”千葉県流山市と兵庫県明石市、「住みたい街ランキング」大躍進の裏にスゴい取り組み

おしゃれなオフィス街「本町」が大躍進本町の風景(写真/PIXTA)

本町の風景(写真/PIXTA)

「本町」は住みたい街ランキングで昨年の18位から13位へとランクアップ。得点ジャンプアップした街ランキングでも40点も得点を伸ばし3位となった。
「本町」のある「大阪市中央区」は自治体総合ランキングで6位となり、特に男性40代、シングル男性、シングル女性では3位の高順位に。

街の魅力として「魅力的な働く場」や「雰囲気やセンスのいい飲食店やお店」などがあり、最先端のおしゃれな街という印象で捉えられていることが分かる。
大阪市中央区は2府4県の中でも人口増加率、15歳未満の人口増加率がともにナンバー1。小学校の児童数も10年前の3000人未満から4000人に届きそうな数に。本町駅周辺は中央区・西区ともに小型の分譲マンション供給が続いており、この5年間で中央区だけで約6000戸以上増えたことが人口増の要因となっている。
1975年の万博開催年に建てられた「船場センタービル」はコロナ禍の中、2021年から土日の営業を開始。地域住民が増えていることで飲食店などがにぎわいを見せている。

梅田に隣接しているのに割安な家賃相場。新築マンションの供給進む「尼崎市」JR尼崎駅前の様子(写真/PIXTA)

JR尼崎駅前の様子(写真/PIXTA)

「尼崎市」は「住みたい自治体」総合順位で過去最高位の19位にランクイン。特にシングル男性で8位に食い込み、夫婦のみの世帯も16位と高支持を得た。ファミリーよりもシングルやカップルからの支持が厚い傾向が見られる。
JR「尼崎」駅は「住みたい街ランキング」では31位だが、「得点がジャンプアップした街」では9位に躍進を遂げた。

JR尼崎駅は大阪駅まで新快速で1駅6分、東海道本線、福知山線、東西線が乗り入れ、交通利便性の高さでは関西屈指。その割に家賃相場が割安なのも魅力のひとつといえる。

住みたい理由として「コストパフォーマンスが良い」「物価が安い」「電車やバスでさまざまな場所に行きやすい」「街に賑わいがある」など、交通利便性や物価といった実質的な側面が評価されている。

尼崎市全体では高齢化が進むものの再開発で美しく整備されたJR尼崎駅周辺を中心にマンションの供給が続き、周辺エリアからの流入も多い。
子ども向け施設として最近注目を集めているのが、2022年に「ボートレース尼崎」場内にオープンした関西初のキッズパーク「モーヴィあまがさき」。ボーネルンド社や行政が共同で子ども向けのイベントを開催しており、なかなか予約がとれないほどの人気だという。

市も子育て支援に力を入れており、子どものうちから健康に関心を持つよう11歳と14歳を対象に「尼っこ検診」を実施。定住・転入促進情報発信サイト「AMANISM(アマニスム)」やSNSを使った情報発信など、独自の取り組みで住みやすさをアピールしている。

2024年の「住みたい街ランキング」では、「梅田」が圧倒的に強かった。得点ジャンプアップランキングでも1位となり、人気の高まりは現在進行形だ。
また、「尼崎」や「本町」など、梅田から10分圏内の街も躍進が目立つ。

コロナ禍を抜け出した今、関西圏では都心の利便性と華やぎが一層求められるようになったと思える。
一方、「明石市」のように、市民目線の施策や地道な街づくりにより人口を増やしている自治体もある。
うめきたエリアの再開発などで都心部が今後さらに整備されていく中、人々が「住みたい」と思う街がどう変化していくか、注目していきたい。

●関連サイト
・SUUMOリサーチセンター「SUUMO住みたい街ランキング2024 関西版」プレスリリース

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「いつか来る災害」そのとき役立つ備え4選。備蓄品サブスクやグッズ管理アプリ、大切なもの保管サービスなど「日常を取り戻す」ために一歩進んだ防災を

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被災時にいち早く「日常を取り戻す」ために。一歩進んだ防災対策について考える

大規模災害を想定した、最低限の水や非常食の備蓄。しかし大地震により物流が途絶え、支援物資も届きづらい状況を思えば、防災リュックの中身だけでは心もとない。また、避難所や仮設住宅での生活が長引いた際には、嗜好品や思い出の品など「心を癒やすアイテム」も必要になる。

できれば最低限ではなく、最悪を想定した十分な備えをしておきたいところだが、自助で賄える備蓄や防災には限界がある。そこで、個人やマンション単位で導入できる最新の防災サービスの検討を含め、一歩進んだ対策について考えてみたい。

防災備蓄をスマホでまとめて管理「SAIBOU PARK」

その前に、多くの人は本当に「最低限」の備えができているのだろうか。防災リュックは、クローゼットの奥で埃をかぶっていないか。そもそも、中身を把握できていなかったり、非常食の消費期限が切れてしまっているケースもあるかもしれない。

そんな、怠りがちな防災備蓄の管理を、スマホで簡単に行えるのが「SAIBOU PARK」。自宅にあるアイテムの写真を撮り、数量や保管場所、消費期限を登録することで、防災備蓄をまとめて管理することができる。

物置に眠る防災用品を集めて撮影する

物置に眠る防災用品を集めて撮影する

アイテム名や個数、保管場所を登録していく

アイテム名や個数、保管場所を登録していく

非常食などは賞味期限や消費期限を設定。通知をONにしておくと、期限が切れる1カ月前と2週間前に、アプリから通知が届く

非常食などは賞味期限や消費期限を設定。通知をONにしておくと、期限が切れる1カ月前と2週間前に、アプリから通知が届く

サービスを運営しているのは、防災用品のセレクトショップも手がける株式会社サイボウ。「SAIBOU PARK」アプリを開発した背景には、防災備蓄にまつわるこんな課題感があったという。

「自宅の防災アイテムや備蓄品を『あったっけ?』『どこだっけ?』と探した経験がある人は多いと思います。防災備蓄を把握しづらい理由は主に3つあり、1つ目は『種類が多く、一つひとつが小さい』こと。2つ目は『購入後に収納すると、当面は気にかけない』こと。3つ目は『目の届かないところに収納したものは、時間の経過とともに忘れてしまう』こと。
防災用品はこうして存在自体を忘れられ、ひっそりと劣化が進んだり、期限が切れてしまいます。せっかく備えたアイテムも、これではいざというときに真価を発揮できません。その解決策として、防災備蓄の全体像をいつでも把握・管理できるように企画したのが、このアプリでした」

こう語るのは、自身も防災士の資格を持つ「SAIBOU PARK」の佐多大翼さん。

SAIBOU PARK

SAIBOU PARKでは防災アイテムの劣化や非常食の消費期限切れを防ぐため、アイテムごとに「期限」を設定し、期限が切れる1カ月前と2週間前にプッシュ通知でリマインドする機能を持たせた。

「非常食だけでなく、電池やガスボンベにも使用期限があります。SAIBOU PARKを使ってみて、そのことを初めて意識したというユーザーの方もいらっしゃいました」(佐多さん)

不足アイテムは、防災用品のセレクトショップ「SAIBOU PARK」で購入できる

不足アイテムは、防災用品のセレクトショップ「SAIBOU PARK」で購入できる

最低限の自助といえる防災備蓄。自分や家族にとって最適な備えを把握するためにも、まずはこうしたアプリを使い、現在の備蓄状況を俯瞰的にチェックしてみるといいかもしれない。

<サービス概要>
・SAIBOU PARK
自宅の備えがひと目でわかる「防災備蓄まとめて管理アプリ」。非常食や懐中電灯など、手元の防災用品をアプリに登録。賞味期限や使用期限を設定しておくと、期限が切れる前にプッシュ通知でお知らせしてくれる。足りないアイテムは、防災用品のセレクトショップ「SAIBOU PARK」から購入することも可能。

被災地で「本当に必要になるアイテム」をレコメンド「pasobo」

食糧の備蓄や日用品、簡易トイレといった防災アイテムは十分に備えていたとしても、避難生活では「意外なもの」が不足することがある。

例えば、乳幼児を連れて避難する場合、被災のストレスで一時的に母乳が出にくくなったり、哺乳瓶を消毒することができずに授乳に困るケースがあるという。
また、小さな子どもの不安やストレスをやわらげる遊び道具、高齢者のいる家庭なら避難所に持ち込める椅子、ペットがいる場合はケージなども用意しておきたい。

最低限の備蓄品以外に、避難所で必要になるものは人それぞれ。家族の属性だけでなく、住んでいる環境によっても必要な準備が異なる。そんな、一人ひとりに合わせた防災対策をパーソナライズして自宅に届けてくれるのが、「pasobo(パソボ)」だ。WEB上の防災診断で「住んでいる自宅の種類は?」「何人で暮らしていますか?」といった13の質問に回答すると、その世帯環境における災害リスクや、全国のハザードマップから見た立地リスクを分析したうえで、自分に必要な防災セットを提案してくれる。

SAIBOU PARK

1分程度の「オンライン診断」を回答

1分程度の「オンライン診断」を回答

自宅周辺の災害リスクや、ハザードマップ上から分析された立地リスクなどの診断結果を確認。パーソナライズされた防災セットのなかから、必要なものを注文する

自宅周辺の災害リスクや、ハザードマップ上から分析された立地リスクなどの診断結果を確認。パーソナライズされた防災セットのなかから、必要なものを注文する

サービスを手掛けるのは株式会社KOKUA。東日本大震災の被災地で出会い、全国各地の被災地支援を続けてきたメンバーたちで設立された防災ベンチャーだ。

「行政による支援は、どうしても『誰もが共通して使えるもの』の優先度が高くなりがちで、個人の属性に応じた物品を用意したり、それを各避難所へ配備することが難しいと聞きます。実際、私たちが避難所でボランティアをしているなかでも、必要なものが不足し不便な思いをしている方がたくさんいらっしゃいました。不便なだけならまだいいのですが、それがないことで体調が悪化してしまうこともある。被災してから『これを準備しておけばよかった』という事態を防ぐためにも、pasoboの防災診断をきっかけに自分や家族にとって『本当に必要な防災対策』を考えていただければと思います」(KOKUA共同代表の疋田裕二さん)

<サービス概要>
・パーソナル防災サービス「pasobo」
WEB上で、家族構成や立地、建物の耐震基準・階数、個人の災害に対する価値観といった、いくつかの質問に回答するだけで、自分に必要な防災対策が1分で見つかるサービス。サイト上に入力された情報をもとに、個人の世帯環境における災害リスクや、全国のハザードマップから見た立地リスクを分析し、最適な防災グッズを提案。提案された防災用品は、サイト上で購入することもできる。

マンション単位で導入できる備蓄品のサブスク「防災サステナ+」

災害の規模によっては、こうした自助の備えだけでは賄いきれない場合もある。そんなときに頼れるのは、地域やコミュニティのなかで助け合う「共助」の力だ。

特にマンションの場合、近年は「在宅避難」を見越した防災力の強化が叫ばれている。実際、管理組合が主体となり、マンション全体で備蓄の管理を含めた防災対策に取り組むケースも増えてきた。

最近では、防災備蓄品の選定や管理をアウトソーシングできるサービスも登場している。2023年10月に提供がスタートした「防災サステナ+」もその1つ。マンションの倉庫の容量や住人の数に応じた適正数量の防災備蓄品を提案・納品してくれるほか、期限切れの前に備蓄品を補充してくれる。

マンション引渡し~管理組合設立時まで(イメージ)

マンション引渡し~管理組合設立時まで(イメージ)

管理組合設立以降(イメージ)

管理組合設立以降(イメージ)

「有事の際に防災備蓄品の使用期限が切れて使用できなかったら、備蓄の意味がありません。実際、管理組合で消費期限や使用期限が切れていて問題になり、慌てて購入されるような事案もあるようです。通知だけでは現地にある備蓄品の期限切れが解消されるわけではないため、自動的に補充されるまでをサービスとしました」(サービスを運営する「つなぐネットコミュニケーションズ」の担当者)

現在は新築マンションを展開するデベロッパーや、既存マンションの管理会社を中心にサービスを提案中。同時に、マンションごとに異なる防災のニーズを聞き取りながらサービス内容をブラッシュアップしている。

ただ、いかに共助が大事といっても、あくまで最低限の「自助」があってこその「共助」。そのため、どこまでを自助とし、どこからを共助として管理組合で備えておくべきかは、住民同士で十分に話し合っておく必要があるという。

「発災当初、消防などの公的支援は被害が大きいところに集中するため、安全性の高いマンションへの支援が遅れる可能性があります。そのため、自分の命を守る『自助』、マンション内で助け合う『共助』が重要になります。『自助』では各住戸での安全対策や水食料等の備蓄をしておくこと、『共助』では救助活動や共用部の安全対策等のため活動ルールや備蓄品を備えておくことが必要です」(同)

<サービス概要>
・防災サステナ+
マンションでニーズの高い防災備蓄品の選定・納品(ハード)に加え、将来にわたる更新期限の管理を、月額利用料金で継続的に利用できる防災サービス。サービスの契約期間中は無料の防災相談サービスが受けられるほか、管理組合専用グループウェアも利用できる。平常時の管理組合による防災活動の活性化に加え、災害時の共助促進も期待できる。

「いつもの暮らし」を取り戻す“大切なもの”保管サービス「防災ゆうストレージ」

被災した際、何より欠かせないのは食糧や生活必需品。その次に必要になるのは、嗜好品や趣味の品、大切にしているものなど「心を癒やすアイテム」ではないだろうか。

2022年、日本郵便と寺田倉庫は防災サービス「防災ゆうストレージ」の提供を開始した。もしものときのために「必要なもの・大切なもの」を寺田倉庫が管理する安全な倉庫に預けておくことができ、地震や災害が起こった際には日本郵便の流通網で全国の被災地まで運んでくれる。

頑丈なポリプロピレン製の専用ボックスは「小」「大」の2種類。避難先ではテーブルや椅子などとしても活躍する(写真提供/日本郵便)

頑丈なポリプロピレン製の専用ボックスは「小」「大」の2種類。避難先ではテーブルや椅子などとしても活躍する(写真提供/日本郵便)

サービスの背景には、被災者たちの辛い経験談があるという。

「被災者の方々に話をお伺いすると、何よりも辛かったのは思い出の写真やアルバム、愛着のある品々をなくしてしまったことであると。家をなくすよりも悲しかったとおっしゃる方もたくさんいらっしゃいました。ふだんは嵩張るようなもの、ちょっと邪魔だなと思っているものでも、いざなくしてしまうと大きな喪失感につながってしまう。そこで、いったん遠くの場所へ思い出を移しておくことで自宅も整理できますし、有事の際の心の拠り所にもなるのではないかと考えました」(サービスを設計した日本郵便の担当者)

それらを預けておくだけでなく、有事の際には避難所まで届けてくれるのも大きい。なかなか自宅に戻れない状況下では、思い出の写真一枚、小さなぬいぐるみ1つが心の拠り所になることもある。

「思い出の品々だけでなく、好きな本や嗜好品もそうだと思います。これらは、命をつなぐために必要なものではありません。でも、避難生活が長引いたときに『いつもの暮らし』を取り戻させてくれます。例えば、避難所や仮設住宅での食事も、お気に入りの食器を使うだけで気持ちは変わる。ちょっとしたことですが、家族の日常を取り戻す第一歩になるのではないかと思います」(同)

「高齢者や子どもと暮らしている家庭」の利用イメージ(写真提供/日本郵便)

「高齢者や子どもと暮らしている家庭」の利用イメージ(写真提供/日本郵便)

災害の規模によっては、避難生活が長期化することもある。もとの暮らしを取り戻すまで日常をつなぎとめてくれるのは、じつは身の回りにあるちょっとしたアイテムなのかもしれない。

<サービス概要>
・防災ゆうストレージ
月額保管料275円~と、個人でも利用しやすい防災向け宅配型トランクルームサービス。専用ボックスに、思い出の品だけでなく、避難先での生活が長期化した場合に必要となる日用品を入れて発送するだけで「じぶん用支援物資」として預けておくこともできる。衣類や衛生品のほか、公的な支援物資だけでは不足しがちな紙おむつやコンタクトレンズ、使い慣れた生理用品、常備薬、ペット用品など、自宅に備えている防災リュックの「拡大版」のような形で利用することもできる。

最新サービスを活用して防災力の強化を

大規模な災害が頻発しているとはいえ、常日頃、高いレベルの防災意識を保ち続けることは難しい。重要なのは、普段は特別に意識しなくても、もしもの時に困らない体制をつくっておくこと。そのためにも、手軽に導入できるこれらの防災サービスをうまく活用し、防災力の強化に努めたい。

●関連リンク
・SAIBOU PARK
【iOS】
【Android】
・パーソナル防災サービス「pasobo」
・防災サステナ+
・防災ゆうストレージ

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高齢化進む築50年超の団地が大学サッカー部寮になった! 芋煮会や大掃除など、学生と高齢者が支えあう竹山団地 神奈川県横浜市

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サッカー部の学生たちが地域と「団地の高齢化」に立ち向かう!子どもや高齢者と学び、教え合う竹山団地

神奈川県横浜市緑区にある竹山団地。神奈川県住宅供給公社が1960年代に開発した約45haの大規模団地です。築50年を超えた約2800戸を有する建物は、日本の高度経済成長期に建てられたほかの団地と同様に老朽化と高齢化の問題を抱えています。

そこで2020年に竹山団地を所有する神奈川県住宅供給公社は、神奈川大学と「連携・協力に関する協定書」を締結。「学生たちに共同生活や地域貢献を通じて課題解決型の教育を実践したい」と考える神奈川大学と、保有資産やこれまでのノウハウを活かして団地活性化に取り組みたい公社のニーズが一致したのです。大学のサッカー部員が団地の空室に住んで、防災訓練や地域のイベントに参加したり、学生食堂を兼ねるカフェの運営、商店街の清掃などを行ったりしています。

2023年の年末にも、大掃除とセットで芋煮会を実施する予定があると聞き、現地を取材。この取り組みの背景や、約4年間を経てつくり上げてきたもの、入居する学生たちの本音などを聞きました。

「子どもたちにマス食わせてやんべ」の声かけで始まった、大掃除と芋煮会

2023年12月のある土曜日、竹山団地の中央にある竹山中公園には、10代、20代の学生たちと一緒に談笑しながら炭火の準備をする高齢男性たちの姿が。そのひとり、竹山連合自治会の経理局長を務める星川敬博さんは、山形県出身。一昨年、寒い季節になったころにふるさとの芋煮を思い出し、神奈川大学の理事長付審議役でありサッカー部の部長を務める佐藤武さん(60代、大学職員)や友人たちと「学生たちに芋煮食わすか」「じゃあ、マスを焼いて食わせてやんべ」という話になったと笑います。

星川さんと一緒に火をおこすサッカー部の4年生。火おこしも慣れたもの(画像/片山貴博)

星川さんと一緒に火をおこすサッカー部の4年生。火おこしも慣れたもの(画像/片山貴博)

竹山連合自治会 経理局長の星川敬博さん。学生たちにとって竹山団地は学生寮としての入居で卒業と同時に退寮になるため、4年生は最後の集まりとなる。「うるさいのがいなくなる」という言葉に寂しさも滲ませる(画像/片山貴博)

竹山連合自治会 経理局長の星川敬博さん。学生たちにとって竹山団地は学生寮としての入居で卒業と同時に退寮になるため、4年生は最後の集まりとなる。「うるさいのがいなくなる」という言葉に寂しさも滲ませる(画像/片山貴博)

神奈川大学 理事長付審議役 サッカー部部長の佐藤武さん。2024年3月で定年を迎えるにあたり、これまでの取り組みを振り返りながら「退職する前にサッカー部でやれることはやっていきたい」と意気込みを語る(画像/片山貴博)

神奈川大学 理事長付審議役 サッカー部部長の佐藤武さん。2024年3月で定年を迎えるにあたり、これまでの取り組みを振り返りながら「退職する前にサッカー部でやれることはやっていきたい」と意気込みを語る(画像/片山貴博)

その日は、朝10時に星川さんたち自治会のメンバーや神奈川大学サッカー部の学生たちが集合して、自治会館周辺を大掃除。集まった人たちや学生の何人かは、自治会館の内外で里芋の皮むきや野菜を切って調理の準備をしています。そこには「ほら、ぼやっとしないで動いて」と学生たちのお尻を叩く、自治会事務局長の高橋明美さんの姿も。高橋さんは学生たちの「お母さん的存在」なのだそう。

自治会館やその前の通りを掃除するサッカー部の学生たち(画像/片山貴博)

自治会館やその前の通りを掃除するサッカー部の学生たち(画像/片山貴博)

屋根の上の掃除は高齢者には危険を伴うことも。運動神経に自信のある学生たちが頼もしい(画像/片山貴博)

屋根の上の掃除は高齢者には危険を伴うことも。運動神経に自信のある学生たちが頼もしい(画像/片山貴博)

団地の自治会の人たちと学生とが混じって外で里芋の皮むきをしている(画像/片山貴博)

団地の自治会の人たちと学生とが混じって外で里芋の皮むきをしている(画像/片山貴博)

調理室では大量の野菜を切って大鍋に入れ、公園まで運ぶ(画像/片山貴博)

調理室では大量の野菜を切って大鍋に入れ、公園まで運ぶ(画像/片山貴博)

竹山連合自治会 事務局長の高橋明美さん。「住民も学生と仲良くなると個別にお願いごとをするようになるが、学生に負担がかからないよう、事務局で “お手伝い内容”として取りまとめている」そう。学校や公社とも打ち合わせを重ねて細かいルールを決めている(画像/片山貴博)

竹山連合自治会 事務局長の高橋明美さん。「住民も学生と仲良くなると個別にお願いごとをするようになるが、学生に負担がかからないよう、事務局で “お手伝い内容”として取りまとめている」そう。学校や公社とも打ち合わせを重ねて細かいルールを決めている(画像/片山貴博)

公園にブロックを置いてつくったかまどで、手馴れた様子で火をおこす学生たち。パチパチと着火用の薪が燃え、白い煙が上がり始めると星川さんや自治会のメンバーが代わるがわる声をかけながら炭を入れて手伝います。聞けば、このような炭の火おこしは数年前から一緒に何度もやって来たのだそう。芋煮も学生たちが大きな鍋にドバドバと豪快に醤油や料理酒を入れて、味見をしながらつくり上げていきます。出来上がったマスの塩焼きと芋煮の味は大好評で、公園内には箸が止まらない学生たちと地域の人たちの笑い声が響きました。

学生と地域の人とが談笑しながらマスが焼けるのを待つ。この80匹ものマスは自治会の人たちが用意してくれたもの(画像/片山貴博)

学生と地域の人とが談笑しながらマスが焼けるのを待つ。この80匹ものマスは自治会の人たちが用意してくれたもの(画像/片山貴博)

寒い日に温かい芋煮は大好評。大鍋の前に列ができる(画像/片山貴博)

寒い日に温かい芋煮は大好評。大鍋の前に列ができる(画像/片山貴博)

「おいしい!」が思わずこぼれる、芋煮の味付けも学生たち自身によるもの(画像/片山貴博)

「おいしい!」が思わずこぼれる、芋煮の味付けも学生たち自身によるもの(画像/片山貴博)

大学のサッカー部が22部屋を学生寮として入居する竹山団地

竹山団地には、サッカー部の学生たち約60人が2DKまたは3Kの部屋に2~3人ずつに分かれて住んでいます。コーチ陣も一緒に入居する、これら22室の部屋は、高齢化によって上層階が空室になっていたものを神奈川大学が所有者である神奈川県住宅供給公社から法人契約で借り受け、学生寮として使用しているものです。エレベーターがないと高齢者には上り下りの負担が大きい上層階ですが、若い学生たちに入居してもらうことで有効活用できるようになりました。

1960年代に建てられ、約2800戸、開発面積45haを有する大規模な竹山団地(画像提供/神奈川県住宅供給公社)

1960年代に建てられ、約2800戸、開発面積45haを有する大規模な竹山団地(画像提供/神奈川県住宅供給公社)

生態系の再現を目指してつくられた大きな池があり、水抜きなどの掃除を学生たちが手伝ってきた(画像提供/神奈川県住宅供給公社)

生態系の再現を目指してつくられた大きな池があり、水抜きなどの掃除を学生たちが手伝ってきた(画像提供/神奈川県住宅供給公社)

その始まりは2019年。神奈川大学の理事長付審議役でありサッカー部の部長を務める佐藤武さんとサッカー部の監督である大森酉三郎さんが、学生の成長を促す仕組みづくりのために、大学や神奈川県住宅供給公社に団地の空室を学生寮として使用しながら、地域の活性化に寄与する仕組みができないかと相談したことにさかのぼります。相談を受けた神奈川県住宅供給公社の水上弘二さんは、具現化できそうな場として、高齢化率が45%以上に達しながらも地域住民の自治体制が整い、公社と自治会の意思疎通が図られている竹山団地に白羽の矢を立て、社内外の調整をはじめました。

神奈川大学のサッカー部の部長を務める佐藤武さん(左)と監督の大森酉三郎さん(右)(画像/片山貴博)

神奈川大学のサッカー部の部長を務める佐藤武さん(左)と監督の大森酉三郎さん(右)(画像/片山貴博)

2020年5月から学生たちの入居が始まり、もうすぐ4年が経とうとしています。これまで、学生たちと地域が一緒に取り組んできたプロジェクトは枚挙に暇がありません。

自治会が主催する防災訓練や花火大会などのイベント運営、休耕地を活用した野菜づくり。団地の空き店舗をリノベーションした学生食堂の空き時間を活用し、横浜市の介護予防・生活支援事業として介護予防体操教室やコミュニティカフェを運営。ほかにも高齢者向けのスマートフォン教室や子どもたちの学習支援の先生役を学生たちが務めています。今後は国の補助を受け、新たな地域活動拠点の整備を進めていくそう。

普段は学生食堂兼クラブハウスとして使用している竹山商店街「14号店舗」は、かつて魚屋だった場所。学生たちもリノベーションに関わり、スマートフォン教室やコミュニティカフェなど団地に住む人たちが集う場所として生まれ変わった。(画像/片山貴博)

普段は学生食堂兼クラブハウスとして使用している竹山商店街「14号店舗」は、かつて魚屋だった場所。学生たちもリノベーションに関わり、スマートフォン教室やコミュニティカフェなど団地に住む人たちが集う場所として生まれ変わった。(画像/片山貴博)

学生たちが講師を務めるスマートフォン教室は「マンツーマンで自分のわからないことを教えてもらえる」と大人気。LINEグループがあり、150人近くの高齢者が登録しているのだとか(画像/片山貴博)

学生たちが講師を務めるスマートフォン教室は「マンツーマンで自分のわからないことを教えてもらえる」と大人気。LINEグループがあり、150人近くの高齢者が登録しているのだとか(画像/片山貴博)

NPOを設立して、アルバイト料を支払い。国や自治体も巻き込むプロジェクトに

これらの事業展開をスムーズにしていくため、サッカー部はNPO法人KUSCを立ち上げました。NPOの運営は、現在、監督の大森さんやコーチたちが中心となって担い、スマートフォン教室の講師や学習支援の補佐役、食堂の運営を行う学生たちには、NPOからアルバイト料が支払われます。

「ちゃんとお金を払っていくことで、活動が継続できるものになります。また、それぞれの仕事に必要な資格を取ると時給がアップする仕組みを取り入れています。学生たちも自分で時間をつくって地域活動に参加するようになりますし、アルバイト料は経済的な支えにもなります」(監督の大森さん)

神奈川大学サッカー部監督の大森酉三郎さん。現在は監督とコーチがマネジメントしているNPOの活動をより広げていくためにも、実務能力のある人を雇用してほしいと大学側に要望しているそう(画像/片山貴博)

神奈川大学サッカー部監督の大森酉三郎さん。現在は監督とコーチがマネジメントしているNPOの活動をより広げていくためにも、実務能力のある人を雇用してほしいと大学側に要望しているそう(画像/片山貴博)

さらに大森監督は「部員たちにとっての将来はサッカーだけではない」と続けます。

「サッカーはこの子たちにとってアイデンティティの中心ですが、チームの中でリーダーシップを取ることができるのはごく少数。活動の場が寮生活や地域にも広がることで、それぞれの場所や活動の中でリーダーシップを発揮する学生部員も出てきて、それがサッカーのプレーにも反映されるようになったりする。相乗効果があるだけではなく、これから先の社会や自分の人生を見据えてどう生きるか、という視点の醸成や人間的な成長につながります」(監督の大森さん)

「いいことばかりではないが、自分を知れた」学生たちの視点と本音

サッカー部の学生たちは、原付バイクで下宿である竹山団地とサッカー部の練習場であるグラウンド、大学のキャンパスを移動する毎日。団地で地域の人たちと生活をする中で、苦労していることなどがないかを聞くと、サッカー部のキャプテンである永谷陵之佑さんは「周囲の住民さんとの生活スタイルの違いには常に気をつけるようにしている」と答えます。

「隣の部屋には、一般の方が住んでいたりするので、自分たちの話し声や生活音が騒音として問題にならないかは気になるところです。高齢の方は夜早く寝たりされるので、洗濯機を回す時間を考えたり、門限がなくても、活発に動く時間は常識の範囲の中で周囲に配慮して行動するように心がけてきました」(キャプテンの永谷さん)

サッカー部のキャプテン、永谷陵之佑さん(4年生)が暮らす竹山団地の1室。1住戸に同じ学年の学生が固まらないように振り分け。上級生から下級生に、ごみ捨てをはじめとする生活のルールなどを教え、引き継いでいくのだと言う(画像/片山貴博)

サッカー部のキャプテン、永谷陵之佑さん(4年生)が暮らす竹山団地の1室。1住戸に同じ学年の学生が固まらないように振り分け。上級生から下級生に、ごみ捨てをはじめとする生活のルールなどを教え、引き継いでいくのだと言う(画像/片山貴博)

また、学業に部活、寮生活での慣れない家事に加え、地域活動の時間をつくるとなると、学生たちへの負担も懸念されます。サッカー部部長の佐藤さんによれば「この取り組みを始める際にも、大学内の責任者などからはその懸念を指摘された」と言います。毎日、結構大変なのでは?と副キャプテンの蓑輪実潤(みのわまひろ)さんに投げかけると率直に答えてくれました。

「正直に言えば、本当にやるべき学業やサッカーがおろそかになってしまったり、事業がどんどん拡大していく中で人手不足を感じたりと、まだまだバランスが取れていないと感じる部分もあります。いいことばかりではありませんが、活動を通して自分が『誰とやるか』を重視することに気づけたりして、自分を知ることにもつながりました」(副キャプテンの蓑輪さん)

サッカー部の副キャプテン、4年生の蓑輪実潤(みのわまひろ)さん。「卒業後はオーストラリアに行き、サッカーをやりながら経営者を目指したい」と語る(画像/片山貴博)

サッカー部の副キャプテン、4年生の蓑輪実潤(みのわまひろ)さん。「卒業後はオーストラリアに行き、サッカーをやりながら経営者を目指したい」と語る(画像/片山貴博)

これからも解決策を模索しながら進む、学生たちと地域の課題

神奈川県住宅供給公社の水上さんも「団地の新しい取り組みとして、多くのメディアで紹介され、全国的に評価されはじめた。一方で、どこででも簡単に横展開できるものではない」と語ります。

「竹山団地は、大森監督から話があったことに加え、自治会の星川さんや高橋さんたちのように家族として、学生たちに関わってくださる方がいるなど、偶然や必然が重なってできたデザインです。同じスキームが他の団地でできるかというと、そうは思っていません。もし他の大学や他の団地で同じような話が出てきたとしても、その地域の思いや環境、資源などを考えながらデザインしていくのでしょうね」(水上さん)

神奈川県住宅供給公社の水上弘二さん。「私たちはオーナーとしてしゃしゃり出ないようにしながら、竹山団地の取り組みを支援している」そう(画像/片山貴博)

神奈川県住宅供給公社の水上弘二さん。「私たちはオーナーとしてしゃしゃり出ないようにしながら、竹山団地の取り組みを支援している」そう(画像/片山貴博)

一方で、この竹山団地での取り組みが、社会問題となっている集合住宅の老朽化や高齢化へのひとつの解決策となりうる期待も込めます。

「今いる4年生たちは、この取り組みの1期生であり、1年生で入学した時から大学4年間を通して活動し続けてきました。1からモデルをつくってきた大変さがあったと思いますが、これから入ってくる子たちは、道がすでにできているところに溶け込めるか、というハードルを乗り越える必要が出てくるでしょう。一方で、住民の皆さんは1年経てば1つ歳をとります。本格的な高齢化のスピードに取り組みが追いつくことができるのか、学生たちの地域活動がどう変わっていくのか、今後も期待をしながら私たちもオーナーとしてできる限りの支援をしていきたいと思います」(水上さん)

芋煮会の様子を見て、団地内に住む子どもが立ち寄る。「大好きな憧れのお兄ちゃん」であるサッカー部員に芋煮をすすめてもらい、嬉しそうに食べる姿がほほえましい(画像/片山貴博)

芋煮会の様子を見て、団地内に住む子どもが立ち寄る。「大好きな憧れのお兄ちゃん」であるサッカー部員に芋煮をすすめてもらい、嬉しそうに食べる姿がほほえましい(画像/片山貴博)

大森監督は「いまの時代、さまざまな形の家族がある中で、学生たちは今まさに家族の経験をしている。今はわからなくても10年後、20年後にこの経験の価値を知ることになるはず」だと言います。

学生たちの将来、そして団地、言い換えれば、日本の社会が抱える課題や将来の姿を見据えて取り組まれるこのプロジェクトが、建物の老朽化や住む人の高齢化への解決策となり得るか、これからもその成長に目が離せません。

●取材協力
・神奈川大学サッカー部
・神奈川県住宅供給公社
・竹山団地 竹山連合自治会

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9人に1人が家具・家電などの長期リース型サブスクを利用。メリットやデメリットなども解説

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9人に1人が家具・家電などの長期リース型サブスクを利用。メリットやデメリットなども解説

家具と家電のレンタル・サブスク「CLAS」は、春の引越しシーズン到来前に「家具・家電に関するアンケート」を18歳~49歳の男女1,000人に実施した。そこで、高価格帯の商品を長期にわたって利用する「長期リース型」のサブスクについて調べたところ、9人に1人が利用していることが分かった。

【今週の住活トピック】
1000人への実態調査で見る「春の新生活の家具・家電事情2024」を公表/CLAS

長期リース型サブスク、11.7%=9人に1人が利用している

サブスクとは、サブスクリプション(subscription)の略。ある商品やサービスを一定期間、一定額で利用できる仕組みのこと。サブスクの中でも長期にわたって利用する「長期リース型サブスク」を利用しているか聞いたところ、「利用している」が11.7%、「利用していない」が88.3%という結果に。おおむね9人に1人が長期リース型サブスクを利用していることになる。

長期リース型サブスクを利用している人を年代別に見ると、20代(13.8%)と30代(14.3%)が10代や(10.0%)や40代(6.7%)よりも多い。CLASの個人会員属性も20代後半~30代が中心であることから、この年代に耐久消費財を所有しない傾向があるという。

長期リース型サブスクを利用してますか(年代別)

出典:CLAS

次に、長期リース型サブスクを利用していると回答した人に、利用しているサブスクの商品を聞いたところ、「家電」が48.7%と最も多く、次いで「家具」の42.7%となった。家電や家具は生活する上で必要なものだが、金銭的負担も大きいことから、サブスクを利用することが多いのだろう。

利用している長期リース型サブスクは

出典:CLAS

2021年時点で近い将来7~8人に1人が利用していそうと予測

別の調査結果を見てみよう。LINEリサーチでは、2021年5月に18~59歳の男女を対象に「家具・家電の定額制レンタルサービス」の現状の認知率や利用率、今後の流行予想などについて調査を実施した。

2021年時点ですでに、「家具・家電の定額制レンタルサービス」の認知率は45.9%(「知っているし、使っている」「知っているし、今は使っていないが以前使っていた」「知っているが、使ったことはない」の合計)で、半数近くが「知っている」状態だった。

次に、自分の身のまわりで「どのくらいの人が使っていそうか?」という『現在の流行体感』を聞いたところ、流行体感スコアは2.3(=100人中およそ2人が利用している)という結果に。では、「1年後、自分のまわりでどのくらいの人が使っていると思うか」という『近未来の流行予想』を聞くと、流行予想スコアは13.0(=100人中およそ7~8人に1人が利用していそう)という結果になった。

2024年2月に実施したCLASの調査結果では、長期リース型サブスクの利用者は9人に1人だったので、2021年時点の予想はかなり近い結果だと言ってよいのだろう。

家具・家電の定額制レンタルサービスの今と1年後

出典:LINEリサーチ

なお、自分が今後使ってみたい(今後の利用意向)かを聞くと、利用意向ありが26.2%(「ぜひ使ってみたいと思う」「機会があれば使ってみたいと思う」の合計)と、近い将来は自分が利用したいと思う人が増えていた。

家具家電の長期リース型サブスク、メリットとデメリット

実家を出て一人暮らしを始める、結婚や同棲で新たに二人暮らしを始める、といったときに、新居の家具家電を買いそろえるのは大変な場合がある。引越しによる初期費用がかさむなか、家具家電のレンタルを利用すれば当初の費用を抑えることができる。

一定期間だけ単身赴任することになった場合も、同様だろう。家族と再び暮らすときに、単身赴任時の家具家電の処分をする必要もない。子どもの年齢が一定期間だけ必要となるものなども、一定期間レンタルすることが有効だ。

また、高額な家具家電を使いたいとき、「いきなり買うのは不安だけど、一定期間使ってみたい」という場合も使い勝手が良さそうだ。つまり、「必要な期間だけ使える&コスパのよさ」がメリットと言えるだろう。

一方、レンタルでは新品とは限らないこと、好きな家具家電がレンタルできることは限らないこと、長く使うとかえって割高になること、などのデメリットもある。

Z世代は、「モノ消費」よりも「コト消費」を好み、所有にこだわらないとか、「買い物で失敗したくない」という意識が強いといった傾向があると言われている。今回の結果を見ると、こうした若い世代を中心に、一定の人たちが生活の中で賢くサブスクのサービスを利用していることがうかがえる。家具家電についても選択肢が増えることで、私たちの生活の仕方も変化していくのではないだろうか。

●関連サイト
【CLAS調査レポート】 9人に1人が長期リース型サブスクを利用、 「家電」と「家具」に人気が集中!
LINEリサーチ、今と近未来の流行予想調査(第七弾・家具、家電の定額制レンタルサービス編)を実施

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対策進まぬ高齢者の住まい問題。福祉の視点から居住支援協議会の立ち上げに奮闘、民間連携の好例に 愛媛県宇和島市

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市役所内で「居住支援協議会は不要」と言われ・・・不動産業界と直接つながることを決めた、愛媛県宇和島市の福祉部門の奮闘

愛媛県宇和島市の保健福祉部では、生活困窮者の住まい確保に向けて不動産会社との連携を必要としています。しかし、福祉分野(厚生労働省管轄、以下厚労省)と不動産関係者(国土交通省管轄)との連携構築に困難を感じていたため、2021年度、市役所内でそれらを結ぶ居住支援協議会の設立を提起するためのヒアリングを実施。しかしまさかの「不要」との結論に……。そこで利用したのが、厚労省が居住支援に本格的に取り組もうとしている自治体や団体を支援する「高齢者住まい・生活支援伴走支援事業」です。

宇和島市のこれまでの動きと今後の展望について、宇和島市福祉課・包括支援センターの岩村正裕さん、大江仁志さんに話を聞きます。

高齢化が進む宇和島市。住まいの確保における課題は?

愛媛県宇和島市は、宇和島城を中心に発展した旧城下町。観光や県外からの移住にも力を入れています。しかし、総人口が減少する中、高齢化率は年々増加傾向にあり、2023年12月時点で40.7%とのこと。市民の健康と生活をサポートする地域包括支援センターで、相談員8人とともに、岩村さん、大江さんが市民から受けるさまざまな相談の件数は、年間3000件にのぼります。

海や山などの自然と、観光名所である宇和島城とその城下町が調和する美しい街並み。観光や移住に注力しているが、現在の高齢化率は4割を超える(画像/PIXTA)

海や山などの自然と、観光名所である宇和島城とその城下町が調和する美しい街並み。観光や移住に注力しているが、現在の高齢化率は4割を超える(画像/PIXTA)

住まいの問題にフォーカスすれば、過疎による空き家の増加、公営住宅の老朽化なども問題になっている一方、「民間の賃貸住宅の家賃は若干高めで、高齢者や低所得者など事情のある人を受け入れる物件は、数が足りていない」と大江さんは言います。

「不動産会社などに適切に働きかけができれば、空き家の問題と入居者の受け入れ、両方の解決ができてお互いにwin-winの妥結点があるはずです。しかし、私たち福祉課の職員は、住宅に関するスキルやノウハウ、知識がありません。住まいに関する適切なアドバイスを私たちはできず、手詰まりになってしまいます」(大江さん)

また、宇和島市にはもう一つ、組織の問題もありました。
それぞれの部署で住宅問題に取り組んでいても、同じ保健福祉部内で高齢者の支援は高齢者福祉課、障がい者や生活困窮者は福祉課、生活保護を受けている人は保護課と担当部署がとても細かく分かれているために「隣の課がどのような問題を抱えているのか、居住支援を必要としている人が全体でどのくらいいるのかといった状況の把握もままならない」のだそうです。

支援を必要とする人によって、市役所内の担当部署が分かれている(画像提供/宇和島市)

支援を必要とする人によって、市役所内の担当部署が分かれている(画像提供/宇和島市)

「市役所内に限らず、『住宅』というキーワードで支援団体や専門職をコーディネートする役割を担う部署がないこと、そして情報や知識を共有できる場がないことも大きな課題です」(岩村さん)

「居住支援協議会は不要」と結論された、その背景とは

それでも住まいを必要としている人たちの住宅確保、生活の安定のためには、他部署や不動産会社など民間団体との連携が不可欠です。そこで岩村さんと大江さんは、2021年に市の社会福祉協議会とともに、居住支援を行う団体の連携を図る組織「居住支援協議会」を宇和島市でもつくれないかと考え、市役所の各部署に居住支援の実態を調査しました。

果たしてその結果は……市民は住まいの問題を市役所に相談しようとはあまり考えないのか、相談件数も少なく、市役所内の各部署では、居住支援協議会設置の必要性をあまり感じていない状況でした。

「しかし、実際の現場では、認知症を発症して生活保護を受けている高齢者や、公営住宅に入居している無職のひとり親家庭など、起因する問題を管轄する部署と、対応する部署がいくつも絡んだ複合的な問題となっているケースも。高齢者福祉課の地域包括支援センターと保護課、建設部の建築住宅課と地域包括支援センターなど、部署をまたいだ支援を要することが多くなっています。

だからこそ相談者が高齢者か、障がいのある人か、ひとり親か、また管轄が厚労省なのか国交省なのか、さらにどちらにも当てはまらないのかによって、市役所内でたらい回しのようになることは避けたい。『住宅(の確保に困っている人)』という括りで支援を協議する場の必要性を強く感じていました。それこそが居住支援協議会ではないかと思ったのです」(岩村さん)

居住支援協議会設立の提案に、市の回答は「必要なし」だった。しかし現場では複合的な問題を解決するための協議の場が必要だと感じている(画像/PIXTA)

居住支援協議会設立の提案に、市の回答は「必要なし」だった。しかし現場では複合的な問題を解決するための協議の場が必要だと感じている(画像/PIXTA)

厚労省のプロジェクトを活用し、理解や学びを深める

そこで市役所内外の関係者に連携の重要性を理解してもらうために、岩村さんと大江さんは、厚労省の「高齢者住まい・生活支援伴走支援プロジェクト」(以下、伴走支援プロジェクトまたはプロジェクト)に応募しました。このプロジェクトは、住まいの確保や、その後の生活に支援を必要とする人たちをサポートする団体の連携の場として、居住支援法人協議会を立ち上げようとしている自治体や団体を専門家が応援・アドバイスするというものです。

プロジェクトに手を挙げたことで、2022年12月には研修会を開催。すでに積極的に居住支援に取り組んでいる自治体から講師を招き、宇和島市の各部署の支援に携わる職員のほか、社会福祉協議会、伴走支援チームのメンバーや厚生労働省職員も出席して、居住支援の基礎から学ぶことができたそうです。

「居住支援法人の必要性についての理解が参加者に浸透しつつあるので、継続しながら居住支援協議会立ち上げの機運を高めていけたらと考えています。

研修会以外にも、個々に居住支援法人の補助金や補助制度、不動産会社へのアプローチの方法など、講師の方に居住支援の仕組みづくりのノウハウを教えてもらいながら、居住支援協議会立ち上げに向けて準備を進めているところです」(岩村さん)

NPOや不動産会社など、民間団体とのつながりも

これまで福祉部門では接点を持てなかった民間団体や不動産関係者とのつながりができたことも、このプロジェクトでの大きな成果といえるでしょう。

実は、宇和島市には居住支援法人(都道府県が居住支援を行う団体を指定するもの)がないものの、精神科を退院した患者さんが自立して暮らすための住まい探しを以前からサポートしている病院があり、市内の不動産会社の間ではその活動がよく知られていました。そのため、行政が居住支援に力を入れていくことについては、概ね好意的な感触を得られているそうです。

「プロジェクトに参加して初めて、病院のスタッフの方がNPO法人を立ち上げて活動を行っていることを知りました。また、今まであまり接点のなかった不動産会社ともつながり、意見交換を重ねています。このきっかけをさらに強いパイプにしていくため、2023年12月には2回目の研修会を開催しました」(大江さん)

研修会を通じて「居住支援とは何か」を学ぶことで、市役所内のいろいろな部署においても居住支援協議会についての理解が進みつつある(画像提供/宇和島市)

研修会を通じて「居住支援とは何か」を学ぶことで、市役所内のいろいろな部署においても居住支援協議会についての理解が進みつつある(画像提供/宇和島市)

居住支援を推進、継続していくために必要なモノとは?

居住支援協議会の設立に向けて奮闘する岩村さんと大江さん。しかし、2人が中心となって市役所内で居住支援協議会を立ち上げ、不動産会社と関係を持ちつつ運営、居住支援活動を行うとなると、人手も足りず無理があるといいます。

「宇和島市に居住支援法人が自主的に立ち上がって、行政と連携をとりながら、居住に関する問題のコーディネートに当たるという体制ができるのが理想です。将来的には、社会福祉協議会や社会福祉法人、不動産会社などがその役割を担ってくれればと期待しています。私たちはその活動を推進・サポートするために心血を注ぎます」(岩村さん)

そしてもう一つの懸念は、居住支援を継続していくための財源です。
居住支援を単独の事業として成立させるのはなかなか難しいのが現実。補助金は受けられますが、毎年申請する必要があるため、常に財源の心配をしなくてはなりません。

一方、全国の居住支援法人は増え続けています。それは歓迎すべきことなのかもしれませんが、居住支援法人が増えすぎて財源が不足し、受けられる金額が少なくなって共倒れすることも大江さんが危惧する点です。

「居住支援に取り組む団体が安心して活動に専念するためにも、介護保険法によって介護サービスが提供されるように、国全体で居住支援の制度化が進むといいなと願っています」(大江さん)

宇和島市のメンバーと厚労省のプロジェクトの伴奏支援チームとが次のステップへ向けた協議を行っているときの様子。支援を必要としている人を取りこぼさない、持続可能な支援体制をつくることが大切(画像提供/宇和島市)

宇和島市のメンバーと厚労省のプロジェクトの伴奏支援チームとが次のステップへ向けた協議を行っているときの様子。支援を必要としている人を取りこぼさない、持続可能な支援体制をつくることが大切(画像提供/宇和島市)

宇和島市では、居住支援を行っていく支援体系の構築が始まったばかり。さまざまな課題に直面する現場職員の苦悩が伺えました。おそらく、市役所内のそれぞれの部署でも住まいに関する課題を抱えていて、なんとか解決したいという思いがあるものの、情報共有や連携体制がうまく取れていないために、解決できないもどかしさがあるのでしょう。

自治体内の横の連携はもちろんのこと、不動産会社などの民間企業やNPO法人などの外部団体との関係づくりも居住支援体制の構築には欠かせません。
「福祉」や「住宅」、「民」と「官」といった枠にとらわれず、目の前にいる困っている人たちを支援していくには何が必要か、同じ方向を見据えて皆で考える場として、居住支援協議会のような組織がもっと機能していく必要性を感じました。

●取材協力
宇和島市

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フォロワー10万超インスタグラマーSmithさんに聞く、32平米・1LDKを花とインテリアで彩るコツ

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フォロワー10万超インスタグラマーSmithさんに聞く、32平米・1LDKを花とインテリアで彩るコツ

ピンクと水色を基調としたインテリア。そしてたくさんの花と花瓶に囲まれて暮らすインスタグラマーのSmithさん。壁のライトブルーと個性的な小物のスタイリングが、明るい空気をつくっています。

モノが多いのに開放感があり、空間づくりがユニークなSmithさんの部屋ですが、実は32平米と思ったよりコンパクトな1LDK。さらに、日当たりがあまり良くないのだそう。それでも自分の「好き」が詰まった空間をつくり上げてきた彼女に、部屋づくりのコツと花と暮らす日々について伺います。

ピンクと水色の調和が生み出す部屋づくり

もともとはフレンチアンティークやヴィンテージの家具を中心とした、落ち着いた雰囲気の部屋に住んでいたというSmithさん。この部屋に引越してきた時には家具とコンクリートの壁が馴染まず、倉庫っぽい印象になってしまったと語ります。

「コンクリートの壁がどうしても重く冷たい空気になりますし、手持ちの家具との雰囲気がまとまらず悩んでいたんです。そんな時、ふと、『日照時間が短い北欧の人は、家の中をカラフルにして過ごしている』という情報を思い出しました。それで『色をたくさん取り入れれば、コンクリートの重たい感じが和らぐんじゃないか?』と考えたんです」

そこで部屋の配色を一変。カラフルなアイテムをセレクトするようになったそう。

「引越してからの約2カ月間で大物家具もほとんど買い替え。ソファはligne roset(リーン・ロゼ、フランスのインテリアブランド)を代表するデザインの『TOGO』にしました。Blue Daisyという淡い水色で、汚れにくいウルトラスエードの生地でオーダーしています」

(写真提供/Smithさん)

(写真提供/Smithさん)

「家具は製作年代やデザイナー家具に限らず、IKEAもうまく活用しています。たとえば食器棚はIKEAのディスプレイ用ラック「ファブリコール」を活用。寝室の棚もIKEAの「PS キャビネット(ホワイト)」を使っています」

寝室にある左の棚がIKEAの「PS キャビネット(ホワイト)」(撮影/ピース)

寝室にある左の棚がIKEAの「PS キャビネット(ホワイト)」(撮影/ピース)

「壁全体のバランスはPhotoshopでシミュレーションしています。我が家はモノが多いので、空間をゾーニングすること、フォーカルポイントをつくること、小物でアクセントをつけることが大切。大物家具はあまり主張しすぎないデザインで無彩色やニュートラルな色を選び、小物で色やエッジを効かせるようにしました」

部屋を彩るポスターやアート作品もバランスを整えるのに一役買っています。とくに、ポスターは気分によって替えられるので重宝しているそうです。

1LDKの部屋のうち、寝室は「配色などを自由に挑戦する場」と位置づけ、自身で壁を塗り替えるのだそう。以前はシーズンごとに温かみのある色、涼しげな色と決めていましたが、現在は季節問わず自分の好きな色を選ぶのだとか。この壁は、なんと塗り替えて8色目なのだそう。

「インテリアはリズム感が出るようにガラスや金属、陶器といったいろんな素材を取り入れています。たとえば、ベッドのシーツがフラットな質感なら、枕はぽこぽこしたワッフル生地にするんです」

寝室とリビングの仕切りには透け感のあるオーガンジーのカーテンで抜け感をつくり、圧迫感のない空間へ仕上げています。

オーガンジーのカーテンは、深いパープルに。花瓶が並ぶ棚は、大阪のヴィンテージショップ「WANT ANTIQUE LIFE STORE」で購入しました(撮影/ピース)

オーガンジーのカーテンは、深いパープルに。花瓶が並ぶ棚は、大阪のヴィンテージショップ「WANT ANTIQUE LIFE STORE」で購入しました(撮影/ピース)

自分の好きなものを「見せる」収納

衣服は見えない場所にしっかり片づける一方で、食器や個性的な花瓶たちは、あえて「見せる」収納を選択。

「自分の好きなものを常に視界に入れていたくて、食器も花瓶も見える場所に飾っています。以前から花瓶は20個ほど所有していましたが、コロナ禍のステイホームをきっかけにお花にハマったんです。花瓶も癖のあるデザインが欲しくなって買いそろえるようになり、今は約200個所有しています。今はカラーパレットのように色分けして棚に飾るように収納しています」

花屋や古着屋、ヴィンテージショップ、東急ハンズの植物コーナーなどで購入した花瓶たち。ジェルシートを敷いて地震対策をしています(撮影/ピース)

花屋や古着屋、ヴィンテージショップ、東急ハンズの植物コーナーなどで購入した花瓶たち。ジェルシートを敷いて地震対策をしています(撮影/ピース)

「好きなものをいつでも見ていたい」というSmithさんの思いは留まりません。Smithさんが推すJO1の白岩瑠姫さんのアクリルスタンドを飾る棚や、シルバニアファミリーをデコレーションした一画もつくられています。

推しのアクリルスタンドが並ぶ棚はSmithさんがDIYしたもの(撮影/ピース)

推しのアクリルスタンドが並ぶ棚はSmithさんがDIYしたもの(撮影/ピース)

Smith流インテリア探しの術

Smithさんのインテリア探しは、インテリアショップやヴィンテージショップを地道に巡るほか、Instagramで見つけた素敵なお部屋にタグづけされたブランドをチェックしたり、Yahoo!オークションで検索したりするそう。エーロ・サーリネンがデザインしたチューリップテーブルのリプロダクト品は、フリマアプリ「ジモティー」にて格安で購入したそう。

ネット検索では「ヴィンテージ、テーブル」といったビッグワードをあえて使い、「後はひたすらスクロールしていく」と言います。

ネットサーフィンで出会ったものの一つが、リビングスペースで存在感を放つテレビ台です。大阪のアンティークショップ「WANT ANTIQUE LIFE STORE」で購入したもの。

「石膏に丸太が刺さったデザインで、まるで遺跡のような存在が気に入っています」

ポップな雰囲気の部屋づくりではテレビの存在が浮きがちですが、個性的なテレビ台とテレビの前に置かれたオブジェが調和しています。

ミッシェル・レモンの彫像やヴィンテージの握りこぶしのオブジェ。右端にあるキャンドルホルダーはデンマークのデザイン会社が復刻した「STOFF NAGEL」(撮影/ピース)

ミッシェル・レモンの彫像やヴィンテージの握りこぶしのオブジェ。右端にあるキャンドルホルダーはデンマークのデザイン会社が復刻した「STOFF NAGEL」(撮影/ピース)

「小物は一期一会だと思い、ビビッときたら購入するようにしています。自分の好きなものを集め続ければ、違うテイストの集合体でもいずれ調和すると信じているので、購入時に迷うことはあまりないです」

(写真提供/Smithさん)

(写真提供/Smithさん)

インテリアはDIYすることも。ダイニングスペースにかかるピンク色のキャンバスは、海外の好きなインテリアスタイリストの自宅写真を見て憧れたことから制作。コンクリートの壁一面に色があるだけで印象が変わるそう。

自作したキャンバスの隣には、ギャラリーで一目ぼれして購入したErin D. Garcia(エリン・ディー・ガルシア)のポスター作品が並びます。照明コードは、空間のアクセントになるように赤いものを探したそう(写真提供/Smithさん)

自作したキャンバスの隣には、ギャラリーで一目ぼれして購入したErin D. Garcia(エリン・ディー・ガルシア)のポスター作品が並びます。照明コードは、空間のアクセントになるように赤いものを探したそう(写真提供/Smithさん)

洗面所のタイルもDIYで貼り付けました。表に出すアイテムはパッケージデザインが素敵なものをセレクトして置いています(撮影/ピース)

洗面所のタイルもDIYで貼り付けました。表に出すアイテムはパッケージデザインが素敵なものをセレクトして置いています(撮影/ピース)

花で満たされる部屋の暖かさ

Smithさんの部屋の中で、ひときわ輝くのがたくさんの花。日があまり当たらない部屋は、冬場の玄関がとくに寒いそう。ですが、一般的に切り花が長持ちする温度は5~10℃とされているので、花のある生活にはベストな環境なようです。

玄関の靴箱の上に飾られた花と花瓶たち。夏はエアコンの効いた室内に花を飾るそう(撮影/ピース)

玄関の靴箱の上に飾られた花と花瓶たち。夏はエアコンの効いた室内に花を飾るそう(撮影/ピース)

花の購入場所は、青山フラワーマーケットや、梅ヶ丘のduft、中目黒のSTAYFLOWERがほとんど。

「店舗によってセレクトが全く異なるので、時間がある日は何軒もはしごします」

「最初はかなり試行錯誤していました。三角形に配置するディスプレイの基本は守りつつ、好きな花屋さんが発信する結婚式の高砂のスタイリングを参考にして、自分なりの生け方を身に付けました。それに色の組み合わせでは補色や反対色を意識して、花と花瓶が互いに引き立つよう工夫しています」

「花の入荷日(基本的には月・水・金)に合わせて花屋へ行き、『かわいい』と感じた花を本数は決めずに購入しています。購入費は1回およそ2000円~5000円。立ち寄る頻度が高いため、花屋の店員さんとお話しすることも自然と増えてきました」

完成した「美」を感じるSmithさんの部屋ですが、今後はどのような進化を遂げるのでしょうか。

「寝室の壁は以前よりも高頻度で塗り替えるつもりです。タイルはどうしても目地が汚れるので、そろそろ玄関のタイルを張り替えようと海外のタイルを取り寄せて考えています。アートなラグも増やしたいですね」

他にも、JO1がデビュー4周年を迎える3月4日には、メンバー11人になぞらえた11色の花を飾る予定だそう。Smithさんの「好き」で、部屋はさらに成長しそうです。

「自分の好きなものを集め続ければ、違うテイストのモノでもいずれ調和する」。Smithさんの哲学が生きた部屋づくりには、まず自分の「好き」を信じて、貫く姿勢が必要になりそうです。

●取材協力
Smith
フォロワー10万人を超えるインスタグラマー。花と個性的な花瓶、カラフルな配色のインテリアコーディネートが人気。近年は自身がキュレーションするポップアップストアの開催もしている。
Instagram:@shimihome

<取材・編集 小沢あや(ピース株式会社)/ 構成 結井ゆき江>

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7歳の目線で大人が学ぶ「熱中小学校」、運動会や部活動に再燃。移住、転職、脱サラ起業など人生の転機にも 北海道「とかち熱中小学校」

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運動会も部活動もある!?大人が通う小学校「とかち熱中小学校」に一日入学してみた

「もういちど7歳の目で世界を…」を合言葉に、大人が学ぶ社会塾「熱中小学校」。2024年2月までに日本全国のさまざまな地域、さらに米国シアトルを加えた計24カ所で開校した実績があり、現在も1,000人を超える生徒が学んでいる。今回筆者は、北海道初の熱中小学校として2017年に誕生した「とかち熱中小学校」(帯広市)の授業を体験。学びに来たはずが、なぜか雪原にダイブしたり、上空800mを飛ぶことに!? 年齢や地域の垣根を超えて生徒が集う、一風変わった「小学校」に潜入します。

熊本県と北海道の距離を超え、「共生」について考えた

チャイムが鳴り、「起立」の号令がかかると、さっきまでのガヤガヤした教室のムードは一瞬でピリッとした空気に変わった。どこにでもある小学校の授業前のワンシーン。でも、ちょっと違う。そこにいるのは下は24歳から上は73歳まで年齢もさまざまな大人たちだ。
この日の「とかち熱中小学校」の会場は北海道の帯広畜産大学。階段状の教室には約50人の生徒が詰めかけていた。

筆者が聴講したのは「共生」の授業。講師は、熊本県戸馳島(とばせじま)で洋ラン農園を営む宮川将人さんだ。
授業は宮川さんの自己紹介から始まった。花農家の3代目として生まれた宮川さんは「サイバー農家」の道を切り開くため、洋ラン業界では前例のなかったネットショップ開設に挑み、日本最大級のECサイトで売上1位の商品を生み出すまでに。ところが34歳のときに過労で倒れ、生死をさまよった経験から「今日が最後の一日だったら何をするか」を自問自答。地域愛が自分の軸としてあることを悟り、地域の活性化に力を注ぐことを決意する――と、かなりかけ足で書いてしまったが、失敗談も惜しみなく披露する宮川さんの講義に、会場は終始温かい笑いに包まれっぱなしだった。そうした中でも、宮川さんが半生を振り返る中で得た教訓「成功の反対は何もしないこと」は、生徒の皆さんの胸に届いたはずだ。

「農家は楽しすぎる」と話す宮川将人さん。前向きに自分らしく、が宮川流(撮影/岩崎量示)

「農家は楽しすぎる」と話す宮川将人さん。前向きに自分らしく、が宮川流(撮影/岩崎量示)

授業後半は、宮川さんのもうひとつの顔「くまもと☆農家ハンター」の話。
農作物のイノシシ被害に向き合い、「災害から地域を守る消防団」のように若手農家有志が取り組む農家ハンター事業が紹介された。捕獲したイノシシを恵みととらえて食肉などへの有効活用を探る中で、イノシシ対策を進めながら耕作放棄地再生や担い手育成につなげるという持続可能な地域づくりのヒントが語られた。人間と野生生物との共生は、エゾシカ被害に悩む北海道にとっても共通したテーマだ。「とかち熱中小学校」の生徒には農家も多く、授業後の質問の多さからも関心度の高さが伺えた。

宮川さんの話に引き込まれる生徒の皆さん(撮影/岩崎量示)

宮川さんの話に引き込まれる生徒の皆さん(撮影/岩崎量示)

1日の授業は2コマ。この日のもうひとコマは「社会」で、こちらはSUUMO編集長の池本洋一氏が先生として登壇した。

教壇に立つ池本編集長。「メディアが取り上げたくなる」をキーワードとしながら、全国のさまざまな街づくりの事例を紹介した。よく見ると傍らにはスーモの姿が(撮影/岩崎量示)

教壇に立つ池本編集長。「メディアが取り上げたくなる」をキーワードとしながら、全国のさまざまな街づくりの事例を紹介した。よく見ると傍らにはスーモの姿が(撮影/岩崎量示)

惜しみなく全力で教えてくれる先生と、7歳のままの好奇心を持ち続ける生徒と

「とかち熱中小学校」の授業は、主に週末の午後に開かれる。半年間を1期として、授業は全8回。生徒になるには申込みが必要で、授業料は1期15,000円(※)だ。「とかち熱中小学校」の運営は主に生徒の授業料でまかなわれている。ちなみに「とかち」を謳ってはいるが、「学区」は十勝エリアに限られているわけではなく、札幌や東京にも生徒はいる。授業はZOOMで配信され、オンラインで出席することも可能だ。
※自治体から助成が受けられる町村もある。なお授業料は各校で異なる

授業の内容は毎回変わり、さまざまな分野で活躍する先生を、地元を含む全国各地から招いて実施する。現在までにのべ344名の先生が教壇に立った(2024年3月時点、課外授業含む)。「世界最高齢」プログラマーとして知られる若宮正子さんや、日本の音楽を世界に発信するピーター・バラカンさんなど、そうそうたる面々だ。

さてその先生だが、全員がボランティアと聞いて驚いた。たっぷり1時間を超える授業に加え、ここは北海道十勝。移動を考えれば少なくとも丸2日間は拘束することになる。先生を引き受ける側もそれ相応の負担を強いられるわけで、熱中小学校への理解と想いがなければ務まらない。
そうした先生の選定や調整を担うのが、「とかち熱中小学校」を運営する一般社団法人北海道熱中開拓機構だ。理事長の木野村英明さんと業務執行理事の亀井秀樹さんに話を聞いた。

一般社団法人北海道熱中開拓機構の木野村さん(左)と亀井さん(撮影/岩崎量示)

一般社団法人北海道熱中開拓機構の木野村さん(左)と亀井さん(撮影/岩崎量示)

「私たちは全国の熱中小学校と連携して350名を超える講師陣リストを共有し、各地域の学校がカリキュラムに合わせて先生をお招きしています。リストとは別に、各校が独自に先生をスカウトする場合もあります。私がお声がけするときの基準は、ワクワクできるかどうか。生徒全員がビビッと来る必要はないけれど、一人でも二人でも、その生徒の人生を変えちゃうような先生を呼ぶことができたらいいなと思って依頼しています」(木野村さん)

そもそもどうして「とかち熱中小学校」はスタートしたのか?

「最初の熱中小学校が山形県高畠町に誕生したのは2015年です。日本IBMの常務を務めた堀田一芙さんが立ち上げました。木野村さんと僕は、設立前にある講演会で堀田さんからこのプロジェクトのことを聞き、都心ではなく地域からこういう動きが生まれるのはすごいなと思って注目していました。その後、熱中小学校を全国に展開することになり、僕たちに声をかけてくれたというのが始まりです」(亀井さん)

こうして2017年春に「とかち熱中小学校」は開校(当初は十勝さらべつ熱中小学校)。半年ごとに生徒を募り、13期目を迎えた。現在は10代~80代の134名が登録する。このうち新入生は2割ほどで、2割は首都圏など十勝以外の地域から受講。平均年齢は44.7歳で全国平均(53.8歳)よりも若い。生涯学習を目的に参加する人のほかにも、起業を目指して通う人、Uターンや2拠点生活を始める前に人脈づくりをしておきたい人など、動機はさまざま。過去には、授業のたびに横浜から飛行機で通学し、ついには夫妻で中札内村に移住した生徒もいる。ちなみにその方はその後、熱中小学校で知り合った映像作家とタッグを組み、現在は広大な雪原に足跡で作品を描くスノーアーティストとしても活躍しているそうだ。

「年齢も職業も異なるいろんな人たちが集まって、刺激を受け合い、お互いにできることを補完して新しいものが生まれています。中にはここでやりたいことを見つけて脱サラし、起業に向けた準備を進めている人もいます。熱中小学校の先生に感銘を受け、その会社に就職した人もいました。一緒に学ぶ仲間がいれば心強いし、新しい挑戦にも背中を押してもらえます。ここに集まるのは、好奇心を7歳のまま持ち続けている人たちなんです」(亀井さん)

授業の後に開かれた懇親会は酪農が盛んな十勝らしく牛乳で乾杯!(撮影/岩崎量示)

授業の後に開かれた懇親会は酪農が盛んな十勝らしく牛乳で乾杯!(撮影/岩崎量示)

授業は帯広畜産大学の教室を借りて行われるが、帯広畜産大学に通う学生にとっても良い影響があると語るのは、同大学の学長であり、「とかち熱中小学校」の校長を務める長澤秀行さんだ。
「うちの学生は約7割が道外からやってきます。何も知らずにこの土地に入ってくる。そうしたときに熱中小の先生や生徒とつながることはすごく大切です。学生にはできるだけ熱中小に参加してもらいたいので、学生は無料で授業が受けられるようにしています。そして一方で、十勝を代表するような企業や、十勝を拠点にがんばっている企業の社長さんにも先生として来てもらっています。最高のキャリア教育の場です。学生たちにはローカルの魅力にたくさんふれて、十勝、北海道が大好きになり、卒業後もここに残って暮らしたい、地域で活躍したいと思ってくれたらうれしいですね」

「十勝には前向きで好奇心旺盛な人が多い」という長澤さん(撮影/岩崎量示)

「十勝には前向きで好奇心旺盛な人が多い」という長澤さん(撮影/岩崎量示)

大人が本気で雪遊びを楽しむ熱中雪中運動会

「とかち熱中小学校」には、学校と同じく運動会もある。
授業の翌日、取材チームは雪中運動会に参加した。氷点下の雪原で行うクレイジーな運動会に。

雪の中の運動会とあって競技も極めてユニークだ。チームでひたすら雪玉をつくる「雪玉づくり競争」(十勝のパウダースノーはサラサラ過ぎて固まりづらい)、玉入れならぬ「雪玉入れ」、ビーチフラッグスをモチーフにした「スノーフラッグ」、ソリを引くスピードを競う「ソリリレー」といった具合に。ルールづくりをはじめ、運営は「とかち熱中小学校」の生徒が主体的に行う。そのねらいを木野村さんに聞くと、次のように話してくれた。

「テーマはチームビルディングとルールメイキングです。毎年、実行委員会を一から立ち上げて運営する。そして競技のルールを決める。自分たちがつくったルールに基づいて、意図したとおりにみんなが動いてくれるか。動いてくれないのか。チームビルディングとルールメイキングを学ぶ実践の場として、運動会は一番手っ取り早いんです」

足元の不安定な雪の上での雪中綱引き。応援にも熱が入る(撮影/岩崎量示)

足元の不安定な雪の上での雪中綱引き。応援にも熱が入る(撮影/岩崎量示)

クイズの答えが書かれた旗をもぎ取るスノーフラッグ。明日は筋肉痛確定(撮影/岩崎量示)

クイズの答えが書かれた旗をもぎ取るスノーフラッグ。明日は筋肉痛確定(撮影/岩崎量示)

ご近所さんも、初めましての人も、同じチームに。いつしか芽生える団結力(撮影/岩崎量示)

ご近所さんも、初めましての人も、同じチームに。いつしか芽生える団結力(撮影/岩崎量示)

実行委員長を務めた小谷文子さんに話を聞いた。小谷さんは更別村の大規模農家コタニアグリの奥さまで、「とかち熱中小学校」の立ち上げから関わる「コア生徒」の一人だ。
「この日のために3カ月前から準備を進めてきました。熱中小学校の生徒29名が今回の実行委員会に参加していますが、みんな仕事がある中で何度も会議を行い、協賛金を集め、広報活動をしてきました。それぞれ得意なことを役割分担して、みんなで知恵を出し合って、今日を迎えました。忙しくても協力を惜しまない、全力で楽しむというのは熱中小学校ならではですよね。今回、5年目にして初めて参加者が100名を超えました。雪中運動会が地域に受け入れられてきているのを実感しています。熱中小学校の関係者だけじゃなく、いろんな人を巻き込んで、つながって、楽しさを広げていくことが大事だと考えています」

実行委員長の小谷文子さんは、「いい天気で本当に良かった」と胸をなで下ろす(撮影/岩崎量示)

実行委員長の小谷文子さんは、「いい天気で本当に良かった」と胸をなで下ろす(撮影/岩崎量示)

……飛んでる?(撮影/岩崎量示)

……飛んでる?(撮影/岩崎量示)

参加者みんなで「ハイ、とかちー!」。子どもも大人もがんばった!(撮影/岩崎量示)

参加者みんなで「ハイ、とかちー!」。子どもも大人もがんばった!(撮影/岩崎量示)

こうした課外活動は雪中運動会にとどまらない。熱中小学校には生徒が自主的に取り組む部活動もある。これまでにピザ部、クレヨン部、豆研究会などさまざまな部活動が生まれた。今年度は新たに雪像部が結成された。

(提供/とかち熱中小学校雪像部)

(提供/とかち熱中小学校雪像部)

(提供/とかち熱中小学校雪像部)

(提供/とかち熱中小学校雪像部)

「おびひろ氷まつり」の会場にスーモ、スモミ、ドンスーモが! 雪像部の皆さん、ありがとうございました!!(提供/とかち熱中小学校雪像部)

「おびひろ氷まつり」の会場にスーモ、スモミ、ドンスーモが! 雪像部の皆さん、ありがとうございました!!(提供/とかち熱中小学校雪像部)

上空800mを新しい観光地に!

実は雪中運動会が行われた日の早朝、取材チームは亀井さんの勧めで熱気球フリーフライトを体験した。それというのも、熱中小学校の生徒さんがパイロットだからだ。

左から2番目が「十勝空旅団(そらたびだん)」代表の篠田博行さん(撮影/岩崎量示)

左から2番目が「十勝空旅団(そらたびだん)」代表の篠田博行さん(撮影/岩崎量示)

篠田さんはパイロット歴36年のベテラン操縦士。長年趣味で熱気球を楽しんでいたが、3年前から副業で観光フリーフライトを始め、2023年3月に32年間勤めた郵便局をすっぱり辞めて本格事業化した。熱気球のフリーフライトサービスを行う民間企業は、十勝でも2社しかないという。ほとんど前例がない中での船出(離陸?)だった。

「昔は競技に夢中になった時期もあったんです。ただ、競技用のバルーンはスムーズな上昇や下降が求められるので機体が小さく、基本は一人乗りなんですね。競技そのものは楽しいけど、空の上では一人きり。一人でボウリングをやって、ストライクを取っても振り向いたら誰もいない、みたいな。『空を共有したい』というのが、観光事業を始めたきっかけです」

球皮の中の空気を温めて浮力を得る熱気球。準備段階から体験できるのがうれしい(撮影/岩崎量示)

球皮の中の空気を温めて浮力を得る熱気球。準備段階から体験できるのがうれしい(撮影/岩崎量示)

球皮の中に特別に入れてもらって記念撮影。一番右は、今回の先生を務めた宮川さん。楽しんでます(撮影/岩崎量示)

球皮の中に特別に入れてもらって記念撮影。一番右は、今回の先生を務めた宮川さん。楽しんでます(撮影/岩崎量示)

事業を始めて気づいたことがある。「お客さんの9割は道外の方です。800mの上空に行くとみんな、だだっ広い畑やまっすぐの道を見て感動するんですね。『何もなくていい』。東京の人はそう言います。ここで育った僕にはその価値がわかっていなかったんです」

音更の街並みを眼下に上昇する熱気球。この日は日高山脈が美しかった(撮影/岩崎量示)

音更の街並みを眼下に上昇する熱気球。この日は日高山脈が美しかった(撮影/岩崎量示)

篠田さんは2023年秋、知人に誘われて「とかち熱中小学校」に入学した。
「自分が知らない世界、知らないキャリアの話を聞くのはびっくりの連続ですよね」

熱中小学校が縁で新しいプロジェクトもスタートした。
「熱中小でこれよりも大きな気球を持っている方がいて、共同で新しい熱気球ビジネスを開発中です。10人乗りの熱気球にシェフを乗せて空の上でレストランを開店したり、スノーアーティストと組んでサプライズプロポーズを演出したり。空の上から大地を見たら雪原に『WILL YOU MARRY ME?』なんて描いてあったら盛り上がるでしょ。空を飛ぶ楽しさをどんどん広げたいし、どんどんたくさんの人と共有したい」。篠田さんの夢も大きく膨らむ。

「とかち熱中小学校」の一日入学(+課外授業)を体験して印象的だったのは、先生も生徒もごちゃ混ぜになって心底、学校を楽しむ姿だった。年の差を超えて笑い合い、地域差を超えて共通の話題で盛り上がる。多様性という言葉がぴったりな同級生たちが磁場となって、これからも十勝管内はもとより、東京や札幌からも人を引き寄せていくのだろう。「十勝に熱中小学校があることが地域の強みになるように、こうした場を提供し続けることが大切」と亀井さんは言う。

2024年4月に7周年を迎える「とかち熱中小学校」。5月には初めての学校祭も計画している。「内容はこれから」とのことだが、ユニークで熱い学校祭になることだけは間違いない。

●取材協力
とかち熱中小学校

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【2024年】JR山手線、中古マンションの価格相場が安い駅ランキング。シングル向け、カップル・ファミリー向け、それぞれ1位は?

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山手線の中古マンション価格相場が安い駅ランキング  2024年版!

東京都を走る鉄道路線は合計するとなんと80以上! そのなかでも東京を代表する路線といえば、JR山手線だろう。都心の主要エリアを囲むように全30駅を結んで環状に線路が続き、東京駅や新宿駅をはじめ都心から各方面へと向かう路線に接続するターミナル駅も数多い。便利な暮らしを求めるならJR山手線沿線で住まいを探すのがうってつけではある一方で、都心部だけあり住宅価格が高いことが予想される。そこで今回は、JR山手線沿線の中古マンションの価格相場を調査! 専有面積20平米以上~50平米未満の「シングル向け」と、専有面積50平米以上~80平米未満の「カップル・ファミリー向け」について、価格相場が安い駅をランキング。さっそく結果を発表しよう。

JR山手線の中古マンション価格相場が安い駅ランキング(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

シングル向け

※東京(千代田区)、有楽町(千代田区)、高輪ゲートウェイ(港区)、原宿(渋谷区)の各駅は調査対象物件数が20件以下のためランク外

カップル・ファミリー向け

※東京(千代田区)、有楽町(千代田区)、神田(千代田区)の各駅は調査対象物件数が20件以下のためランク外

リーズナブルな物件を探すなら新大久保駅~秋葉原駅間を狙おう山手線の中古マンション価格相場が安い駅ランキング シングル向け

(図/SUUMOジャーナル編集部)

山手線の中古マンション価格相場が安い駅ランキング シングル向け カップル・ファミリー向け

(図/SUUMOジャーナル編集部)

「シングル向け」中古マンション(専有面積20平米以上~50平米未満)の価格相場が最も安かったのは、荒川区にある西日暮里駅で価格相場は3770万円。「カップル・ファミリー向け」(専有面積50平米以上~80平米未満)の価格相場は5798万5000円で、2位にランクインしている。

西日暮里駅(写真/PIXTA)

西日暮里駅(写真/PIXTA)

西日暮里駅にはJRの山手線に加えて京浜東北線も停車するほか、日暮里・舎人ライナーと東京メトロ千代田線も通っている。東京メトロ千代田線1本で大手町駅や霞ケ関駅、表参道駅に行けるうえ、代々木上原駅から先は一部列車が小田急小田原線と直通運転されているのも便利なところ。西日暮里駅の駅周辺を見ると細い路地が入り組んでいるが、この街並みがガラリと変わる計画が持ち上がっている。JRや千代田線の駅と日暮里・舎人ライナーの駅に挟まれた区間に、地上47階建て程度の住宅棟と地上11階建て程度の商業棟が建設され、文化交流施設や保育施設も設置される予定だそう。2024年夏に再開発の組合設立・事業計画の認可、着工は2025年度末ごろ、竣工は2030年度内を目指しており、少々先ではあるものの大きな転換期を迎えた街といえる。今後は物件の価格相場も上がっていくかもしれない。

そんな西日暮里駅から飲食店が並ぶ商店街を抜けつつ南東へ7~8分も歩くと、「シングル向け」2位の日暮里駅へ。両駅間の距離はJR山手線で最も短くわずか500mほど、価格相場も大きくは変わらず日暮里駅は西日暮里駅から20万円アップの3790万円という結果に。ちなみに「カップル・ファミリー向け」では価格相場6680万円で5位となった。

日暮里駅(写真/PIXTA)

日暮里駅(写真/PIXTA)

日暮里駅にはJRの山手線と京浜東北線、常磐線が停車するほか、日暮里・舎人ライナーと、成田空港にダイレクトアクセスも可能な京成本線が乗り入れている。駅ナカ商業施設「エキュート日暮里」が併設され、弁当や総菜、お菓子など食品関係のショップやカフェ、雑貨店が営業中。また、駅西側には約170mの通りに60軒ほどのさまざまな商店が連なる「谷中銀座商店街」が広がっている。この商店街を含む谷中・根津・千駄木一帯は「谷根千エリア」と呼ばれ、古い建物や下町情緒が残る街並みが人気。歴史ある神社や文化施設も点在しているので、街歩きを楽しんではいかがだろう。

谷中銀座商店街(写真/PIXTA)

谷中銀座商店街(写真/PIXTA)

さて、西日暮里駅から日暮里駅とは反対の北西へ15分ほど歩くと、JRの山手線・京浜東北線が通る田端駅に到着する。価格相場は「シングル向け」が3905万円で4位に、「カップル・ファミリー向け」だと5740万円で1位にランクインした。北区にある田端駅は武蔵野台地の東端部に位置し、周囲には起伏にとんだ台地と平坦な低地で構成された高低差のある街並みが広がる。駅前にはスーパーやコンビニ、ファストフード店はあるが繁華街といった雰囲気ではなく、静かな住宅街。しかし、3フロアにわたる駅ビル「アトレヴィ田端」にはスーパーやドラッグストア、飲食店などがあるので、日頃の買い物には困らなそうだ。

田端駅前(写真/PIXTA)

田端駅前(写真/PIXTA)

「シングル向け」「カップル・ファミリー向け」のランキングを見てみると、両ランキングともトップ10の駅は環状に走るJR山手線の北側半分に位置する新大久保駅~秋葉原駅間の14駅に収まっていた。14駅のうち唯一、トップ10に漏れた池袋駅も「シングル向け」「カップル・ファミリー向け」で各11位にランクインしている。JR山手線内でも安い物件を探したいなら、新大久保駅~秋葉原駅間を狙うとよいだろう。

「住みたい沿線」1位のJR山手線沿線のなかでも人気の駅をチェック!

JR山手線は「SUUMO住みたい街ランキング2024(首都圏版)」で調査した「住みたい沿線」の1位に輝いている。今回調査で上位にランクインした「安い」駅も軒並み価格帯が高めなのは、さすが人気の路線といえる。例えば先日ご紹介した「東京23区内の中古マンション価格相場ランキング」の調査結果と比べてみたところ、今回の「シングル向け」1位の西日暮里駅は23区内の安い駅ランキングだと40位(=価格相場が23区内で40番目に安い駅)で、「カップル・ファミリー向け」1位の田端駅にいたっては何と23区内の安い駅ランキングでは142位! こうして見ると、住宅価格が日本屈指の高さである東京23区のなかでも、JR山手線沿線は特別なエリアだと改めてわかる。

そんな人気の路線、JR山手線の全30駅のなかでも特に人気の駅はどこか。「SUUMO住みたい街ランキング2024(首都圏版)」によると、住みたい街トップ3の横浜駅・大宮駅・吉祥寺駅に続いて4位に恵比寿駅、5位に新宿駅、6位に目黒駅、7位に池袋駅、8位に品川駅、9位に東京駅、11位に渋谷駅、とJR山手線の駅がランクインしていた。恵比寿駅は今回調査した「シングル向け」では24位(価格相場7280万円)、「カップル・ファミリー向け」では25位(同1億2690万円)。1億円の大台を突破すると住まいを購入する人はだいぶ限られてくるだろうが、さてどんな街なのか見てみよう。

恵比寿駅前(写真/PIXTA)

恵比寿駅前(写真/PIXTA)

恵比寿駅は渋谷区に位置し、両隣にある渋谷駅と目黒駅と比べても「シングル向け」「カップル・ファミリー向け」ともに価格相場が突出して高くなっている。乗り入れ路線はJR各線のほかに、霞ケ関駅や銀座駅などを通る東京メトロ日比谷線があって便利。駅ビル「アトレ恵比寿」は本館が7階、西館が地下1階から地上8階まであり多彩な店舗がそろっている。この恵比寿駅は現・サッポロビールが製造した「ヱビスビール」の出荷専用の貨物駅として1901年に開業したそうで、駅名もビール名に由来するのだとか。ビール工場の跡地に1994年誕生したのが商業・文化施設や住居、ホテル、オフィスの大型複合施設「恵比寿ガーデンプレイス」で、2022年11月の大型リニューアルでまた注目度がアップ。商業棟の地下2階から地上2階が一新されたほか、一時休館していた映画館も再オープンしている。駅周辺には各国の大使館が多く、商業施設が多いわりに大通り沿いを外れると静かな住宅街が広がるのも特徴。便利さと静かな暮らしが両立できる点が、街の人気につながっているのだろう。

前出の「住みたい街」に挙がっていたJR山手線の駅からもう1駅、ピックアップしてみよう。新宿駅、目黒駅、池袋駅、品川駅、東京駅、渋谷駅のうち「シングル向け」「カップル・ファミリー向け」ともに価格相場が最も安かったのは、池袋駅だ。両ランキングとも11位に入っており、価格相場は「シングル向け」が4399万円、「カップル・ファミリー向け」が7480万円だ。

池袋駅前(写真/PIXTA)

池袋駅前(写真/PIXTA)

豊島区にある池袋駅はJR各線と東武東上線、西武池袋線、東京メトロ丸ノ内線・有楽町線・副都心線が乗り入れる一大ターミナル駅。駅周辺に大型商業施設が立ち並ぶ都内屈指の繁華街であり、さらに今後は大型の再開発が計画されている。東武百貨店や池袋センタービル、西口公園などがある駅西口地区を4つの街区に分け、A街区には地上41階・地下4階、B街区には地上50階・地下5階、C街区には地上33階・地下6階の高層複合施設を建設し、D街区には公園を整備するという壮大なプロジェクトだ。早ければ2027年度に既存建物の解体に着手し、全体竣工は2043年度ごろだという。約20年後とまだまだ完成は先だが、ほかにも駅東口側では2026年度竣工を目指して文化体験施設を備えた地上33階・地下3階の複合施設の開発事業が進行中だったりと、さまざまな再開発が計画されている。さらなる発展が見込まれる街・池袋に、今のうちによい物件を入手しておくのもよいかもしれない。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されているJR山手線沿線の駅(掲載物件が20件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】
駅徒歩15分圏内、物件価格相場3億円以下、築年数40年未満、敷地権利は所有権のみ
シングル向け:専有面積20平米以上50平米未満
カップル・ファミリー向け:専有面積50平米以上80平米未満
【データ抽出期間】2023/7~2023/12
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

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全国の自治体で初「ひとり親家庭の移住サポート」。住まい・仕事・教育など手厚い支援、地方移住ニーズに応える 静岡県川根本町

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全国の自治体で初「ひとり親家庭の移住サポート」を行う静岡県・川根本町の取り組みとは。住まいだけではない仕事、教育、生活環境の充足

2022年に全国の自治体で初めて「ひとり親家庭」に特化した移住サポートプログラムを開始した静岡県の川根本町。このプログラムは、住まい探しが困難なひとり親世帯への有効な解決策となるのでしょうか。ひとり親家庭が安心して暮らすために川根本町が行う支援とは?川根本町 経営戦略課の植村紳吾さんと移住コーディネーターの神東(かんとう)美希さんに話を聞きました。

ひとり親家庭が抱える住まいの問題と「移住」との関係

川根本町は、静岡県の中央部に位置し、一級河川の大井川が流れ、全面積の約94%は山林という、自然に囲まれたのどかな町です。観光温泉地として知られる一方で、少子高齢化が進み、人口減少や働き手不足が課題となっています。

南アルプスの山々や大井川に囲まれた自然豊かな町(画像提供/川根本町)

南アルプスの山々や大井川に囲まれた自然豊かな町(画像提供/川根本町)

一方、秋田県にかほ市のアンケート結果によると、一都三県(東京、神奈川、埼玉、千葉)のシングルマザーの4割近くが「地方移住に興味がある」と答えており、ひとり親家庭に地方移住のニーズがあるようです。ひとり親家庭は、子育てと両立できる仕事や公的な支援・補助制度があることを重視して居住地を選択する傾向があるため、人口減少に悩む地方の自治体と住まい探しに困っているひとり親家庭をうまくマッチングできれば、win-winの関係を築けるかもしれません。

シングルマザーの約4割は、地方への移住に興味があるというアンケート結果も(画像提供/秋田県にかほ市)

シングルマザーの約4割は、地方への移住に興味があるというアンケート結果も(画像提供/秋田県にかほ市)

ひとり親家庭の移住を後押しする「マザーポート移住」とは

このような問題を解決するために川根本町が、2022年から取り組んでいるのが「マザーポート移住」です。
母子家庭のための不動産ポータルサイト「マザーポート」に移住専用ページを作成し、ひとり親家庭の移住を町ぐるみで積極的に受け入れようというもの。

前述したようにひとり親の移住への関心度は高い傾向にありますが、知り合いが誰もいない見ず知らずの土地に移住し生活していくのは、誰しも不安に違いありません。

ひとり親であればなおさら、生活のために仕事も探さなくてはならず、子どもと過ごす時間も必要です。
また、一般的な子育て世帯の平均世帯年収814万円に対して、母子家庭は373万円というデータ(厚生労働省「2021年度(令和3年度)全国ひとり親世帯等調査報告」「2021年国民生活基礎調査」)が示しているように、ひとり親家庭、特に母子家庭は貧困率が高く、オーナーや管理会社の家賃滞納への不安から借りられる物件が限られるなどの問題も。住所が定まらなければ行政のサービスを受けることも、仕事に就くこともできないという負のループに陥る恐れがあります。

ひとり親家庭では、安定した収入がないと入居を断られてしまうことがある。住所が決まらなければ、公共のサービスや支援を受けることができないという悪循環に……(画像提供/川根本町)

ひとり親家庭では、安定した収入がないと入居を断られてしまうことがある。住所が決まらなければ、公共のサービスや支援を受けることができないという悪循環に……(画像提供/川根本町)

「マザーポート移住では、住宅の確保が困難な可能性のあるひとり親家庭に対して、福祉、移住、教育それぞれの問い合わせを、経営戦略課が窓口になってワンストップで相談に乗るのが特徴です。他の自治体では、各課に相談しなければならず大変というお話も聞きますが、川根本町ではまとめて相談ができるので、安心してお問い合わせいただけると思います」(植村さん)

移住を考える人の事情はさまざまです。自然豊かな川根本町に魅せられた人もいれば、人間関係や仕事、家賃などで困っている人もいるでしょう。実際に移住した人のなかには、子どもが学校になじめず、新たな環境を整えるために移住して来たというケースも見られます。

川根本町では、移住後もひとり親と子どもたちがスムーズに地域になじむことができるよう、移住希望者と地元住民の橋渡し役である「移住コーディネーター」が中心になって地域との間を繋ぎ、暮らし面での相談にも乗っています。

「町の人たちがとても親切で、いち住民として私たちのことを気にかけて見守ってくださるので、働きながらも安心して子育てができる」というのは川根本町に移住してきたシングルマザーの声。移住コーディネーターの神東さんは、近所のおじいちゃんおばあちゃんたちにとっても、子どもがいることで地域が明るくなり、良い影響をもたらしていると感じています。

移住コーディネーターの神東さん。自身も10年以上前に他県からやって来た移住組。移住してくる人の不安も、住民の気持ちもわかるからこそ、双方の橋渡しをしたいという(画像提供/川根本町)

移住コーディネーターの神東さん。自身も10年以上前に他県からやって来た移住組。移住してくる人の不安も、住民の気持ちもわかるからこそ、双方の橋渡しをしたいという(画像提供/川根本町)

川根本町で、ひとり親家庭の住まい・仕事・教育環境はどうなる?

ひとり親家庭が移住するとなると、前述したように住居や仕事、育児や教育環境、さらには地域の人たちと上手に付き合っていけそうかなど、事前に確認しておくべき点はいろいろあります。川根本町の事情はどうでしょうか。

まず「住まい」については、ひとり親家庭が住むことのできる住宅として町営住宅、空き家バンク物件、そして民間アパート2棟があります。

ただ、空き家バンクは売買物件が多く、補修を必要とする場合もあって初期費用がかかるのと、すぐに住めないものもあるのが難点。町営住宅は比較的リーズナブルですが、空いている部屋が少なく、タイミングによっては、いつでも入れるというわけではないとのこと。希望通りの物件が必ずあるというわけではないので、なるべく希望に添えるものを町の担当者や移住コーディネーターが一緒に探します。

川根本町の町営住宅(画像提供/川根本町)

川根本町の町営住宅(画像提供/川根本町)

また、子どもの通う保育園や学校といった環境も気になります。

「川根本町には小学校が2校あり、そのうちの1校は1学年4~10名程度の小規模な学校で、もう一つの学校は1学年20名程度です(2024年度から小中一貫の義務教育学校2校となります)。実際に授業風景などを見てどちらの学校が良いか決めてもらい、その学区内で住まいを探すという流れになりますね」(神東さん)

町内には公立・私立あわせて1つの幼稚園と3つの保育園があり、待機児童ゼロ。親と幼児が一緒に遊べて保育士さんが子育てママの相談に乗ってくれる施設もあるなど、子育てや子どもの教育が充実しているのも嬉しいところ(画像提供/川根本町)

町内には公立・私立あわせて1つの幼稚園と3つの保育園があり、待機児童ゼロ。親と幼児が一緒に遊べて保育士さんが子育てママの相談に乗ってくれる施設もあるなど、子育てや子どもの教育が充実しているのも嬉しいところ(画像提供/川根本町)

さらに、移住先でどのような仕事があるのかということも重要です。マザーポート移住のホームページでも地元の企業がいくつか紹介されています。

「基本的に、常に求人はあり、働き口はありますが業種や職種は限られます。ひとり親家庭の場合は、お子さんがいるので土日が休みであることや、突然の病気や学校の行事などでは融通がきく仕事でないと厳しいですよね。女性だと土建業などの現場仕事は体力的に難しいことが多いですし。マザーポート移住には、そのような事情にも比較的理解のある会社を掲載しています」(神東さん)

KAWANEホールディングスはそのような会社の一つです。代表の迫洋一郎さんは、マザーポート移住を川根本町に提案した一人で、自身も数年前に地元で起業した移住者だそう。ほかにも、最近は農家民宿やゲストハウス、飲食店といった事業を自分で営む人も増えているそうです。

マザーポート移住の提案者でもあり、移住者の採用にも前向きなKAWANEホールディングスの迫さん。ほかにもひとり親に理解のある企業がマザーポートに掲載されている(画像提供/川根本町)

マザーポート移住の提案者でもあり、移住者の採用にも前向きなKAWANEホールディングスの迫さん。ほかにもひとり親に理解のある企業がマザーポートに掲載されている(画像提供/川根本町)

ひとり親家庭も活用できる制度を整備。移住者の増加で町が変わる

川根本町は2022年にマザーポート移住を始める前から、ひとり親に限らず、移住者を呼び込むためにさまざまな移住制度の充実を図ってきました。例えば、家賃や住宅購入費用(川根本町定住・移住促進住宅家賃購入補助金)、住宅改修(川根本町定住・移住促進住宅改修事業費補助金)のための補助金や「こども医療費助成制度」などの助成金を設置。移住してくる人に対してはまずはこの町の暮らしを体験してもらうための「お試し住宅」、移住や就業にかかる費用を助成する「移住・就業支援金」制度もあります。その甲斐あってか、ここ数年では、Uターンも含めて年間約40名ほどの人たちが川根本町に移住しているそうです。

近ごろでは、移住してきた人たちがSNSで町での暮らしを発信し、町でのイキイキとした暮らしぶりを見て新たに移住してくる人もいるのだとか。地元の人たちも新しいお店に出入りして、新たなネットワークができているといいます。

「若い移住者のエネルギーで新しいつながりが自然にできて町が活性化することは大歓迎です。町としても地元の人と移住してくる人の橋渡しを強化していくために、今まで1人だった移住コーディネーターを2人に増やして、移住を希望する人たちにより行き届いたサポート体制を整えています」(植村さん)

このようにひとり親家庭に限らず、移住者が入りやすい地域の雰囲気があることも、地域のサポートを期待したいひとり親家庭にとっては重要なポイントでしょう。

川根本町では町が移住促進に力を入れている。子育てや暮らしへのサポートが充実しているのも特徴だ(画像提供/川根本町)

川根本町では町が移住促進に力を入れている。子育てや暮らしへのサポートが充実しているのも特徴だ(画像提供/川根本町)

全ての人に移住が向くわけではない。親子が共に生活を楽しめる環境へ

しかし神東さんは「誰にでも移住をおすすめするわけではない」と言います。かつて親子で移住した人の中には、子どもは友達もできて楽しく暮らしても、お母さんが地域に馴染めず、転出した人もいたそうです。

「例えば、川根本町での暮らしに車は必須。運転免許や車のない人は、ここでの暮らしは向いていないでしょう。また、地域のコミュニティーに溶け込んでいくには、自分から心を開いてなじもうとする姿勢が必要だと思います。子どもたちは手厚い教育が受けられるし順応力もあるので、実は私たちもあまり心配していません。むしろひとり親のお母さん、お父さんが孤立しないかを常に気にかけています」(神東さん)

「ひとり親家庭への支援がきっかけになって川根本町に興味を持ってくれる方、住みたいと思ってくれる方が増えていくような制度になっていけばと思っています」(植村さん)

移住を検討するときには、子どもだけでなく親自身がいざというときには相談に乗ってもらえるような人間関係を構築して、移住先での生活を楽しむ姿勢が必要なようです。

地域みんなが一緒になってこれからの町をどうよくしていくかを話し合う。「移住者ともともと暮らしている住民が分断しないよう、町の活性化につなげていくことが大事」だと神東さんたちは考えている(画像提供/川根本町)

地域みんなが一緒になってこれからの町をどうよくしていくかを話し合う。「移住者ともともと暮らしている住民が分断しないよう、町の活性化につなげていくことが大事」だと神東さんたちは考えている(画像提供/川根本町)

今回話を聞いた川根本町では、マザーポート移住を開始して、2023年12月現在で問い合わせは4件。うち実際に移住したひとり親家庭は1件です。ひとり親の移住支援として実績だけを見ると、年間40名の移住者の中で、この制度の認知度はまだまだこれからの感があります。

しかし、住まい・仕事・教育、そして地元住民との交流など、複合的にサポートが整えられていることは、ひとり親家庭にとって魅力的で、認知が進めばもっとニーズは広がっていくのでは、と思いました。今後も、このような自治体の動きを注視しながら、ひとり親家庭がより良い暮らしを追求できるよう応援していきたいですね。

●取材協力
・川根本町
・マザーポート移住(川根本町)

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【2024年】JR山手線、家賃相場が安い駅ランキング。目白駅と田端駅が8万8000円で同額1位に

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山手線の家賃相場が安い駅ランキング 2024年版!

先日発表された「SUUMO住みたい街ランキング2024 首都圏版」にて、1都4県に走る鉄道路線のうち「住みたい沿線ランキング」の人気1位に輝いたJR山手線。都心の30駅を環状に結んで走る沿線には東京を代表する駅がずらりとそろい、他の路線に接続するターミナル駅も豊富。さらに日中ならほぼ5分間隔で次々と運転されていて、アクセス性のよさは抜群といえる。そんな便利なJR山手線沿線に住まいを借りるなら、家賃はどれくらい必要なのだろう? 沿線の各駅から徒歩15分圏内にある一人暮らし向け賃貸物件(専有面積10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK)の家賃相場を調べたところ、全30駅でその相場には最大4万9000円の開きがあることが判明! 気になる調査結果を見ていこう。

JR山手線の家賃相場が安い駅ランキング(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

JR山手線の家賃相場が安い駅ランキング

■関連記事:
・【2024年】JR山手線、中古マンションの価格相場が安い駅ランキング。シングル向け、カップル・ファミリー向け、それぞれ1位は?
・【2024年】東京23区の家賃相場が安い駅ランキング 。トップ3はすべて江戸川区で6万5000円以下!

目白駅と田端駅が、家賃相場8万8000円の同額1位に

JR山手線の家賃相場が安い駅ランキングの1位には、家賃相場8万8000円の目白駅と田端駅の2駅がランクイン。目白駅は豊島区、田端駅は北区に位置しているが、それぞれどんな駅なのか見てみよう。

目白駅(写真/PIXTA)

目白駅(写真/PIXTA)

目白駅は山手線以外のJR線や他社の路線が乗り入れていない単独駅。JR山手線としては珍しく、全30駅のうち単独駅は新大久保駅(11位・家賃相場9万8500円)と、ここ目白駅の2駅だけだ。そんなこともあってか、両隣に位置する4位・高田馬場駅(家賃相場9万1500円)と8位・池袋駅(同9万3000円)に比べると駅周辺は落ち着いた雰囲気。高校や大学、専門学校など教育機関が多いのも特徴で、駅東側には学習院大学のキャンパスが広がっている。

目白駅は日本初の橋上駅としても知られ、駅出入口は目白通りに面した1カ所。目白通り沿いには複数のコンビニ、飲食店やスーパーなどが入ったショッピングモール「トラッド目白」などが点在している。大通り沿いを離れると閑静な住宅地が広がり、静かな暮らしを求める人によさそうだ。一方で、多彩な商業施設でにぎわう高田馬場や池袋の駅前にも歩いて15分ほどで行くこともできる。

田端駅 南口(写真/PIXTA)

田端駅 南口(写真/PIXTA)

1位になったもう一つの駅、田端駅はJRの山手線に加え京浜東北線が利用可能。駅の北西部には何本もの線路が並行する車両基地が広がり、駅前の橋梁の上や車両基地のフェンス越しに新幹線や機関車、貨物列車が眺められる。駅南口はJR山手線の駅舎とは思えない小ぢんまりとした造りで、どこかのローカル線の駅のよう。2023年にJR東日本が開催したスタンプラリー「東京23区内秘境駅ラリー」のチェックポイントにも選ばれており、都内でありながら「秘境駅」とJR自らが太鼓判を押すひなびた雰囲気は一見の価値アリといえるかも。

田端駅 北口(写真/PIXTA)

田端駅 北口(写真/PIXTA)

一方で田端駅北口には駅ビル「アトレヴィ田端」が併設され、電車を降りてすぐにコンビニやスーパー、ドラッグストア、飲食店などが利用できる便利な環境だ。駅周辺にはショッピングモールなどの大型商業施設はないが、コンビニやスーパーは複数ある。JR山手線の中では知名度は低いかもしれないが、2路線が利用できて日々の買い物には困らず、家賃相場も低めとあって、田端駅は「SUUMO住みたい街ランキング2024 首都圏版」では「穴場だと思う街(駅)ランキング」の16位に選ばれている。

西日暮里駅(写真/PIXTA)

西日暮里駅(写真/PIXTA)

田端駅南口から線路沿いを南へと10分ほど歩けば、荒川区に位置する3位・西日暮里駅へ。家賃相場8万9000円の西日暮里駅にはJRの山手線と京浜東北線、日暮里・舎人ライナー、さらに大手町駅や霞ケ関駅、表参道駅を通る東京メトロ千代田線も乗り入れている。JR駅構内のコーヒーショップやそば店が朝から晩まで営業していたり、駅周辺にも気軽に利用できる飲食店が多数あるのは、あまり料理をしない人にうれしいところ。コンビニやスーパー、ドラッグストアも点在しているほか、駅から南へ10分ほど歩くと約170メートルの通りに60軒ほどの商店が連なる「谷中銀座商店街」も。食料品店や飲食店、雑貨店など多彩な店舗があり、地元の人のみならず食べ歩きを楽しみに来る観光客もいる人気の商店街が近所にあるのは魅力だろう。

谷中銀座商店街(写真/PIXTA)

谷中銀座商店街(写真/PIXTA)

そんな西日暮里駅の駅前では、2030年度の竣工を目指して地上47階建程度の住宅棟と地上11階建程度の商業棟の建築計画が進められている。これが完成するとさらなる街のにぎわいが予想され、家賃相場の上昇もあり得る。リーズナブルに住むなら、今のうちが狙い目かもしれない。

4位以降を見てみると、4位は1位・目白駅に隣接する高田馬場駅、5位は1位・田端駅の隣の駒込駅、6位には3位・西日暮里駅の隣の日暮里駅……と近接する駅が上位に並んだ。なんとトップ11には新大久保駅~鶯谷駅間の連続する11駅がランクインするという結果に。そして12位以降になると家賃相場が10万円以上に突入するので、家賃を10万円未満に抑えたいと考える人は、JR山手線でも北側に位置するこの11駅に狙いを定めて住まい探しをするとよさそうだ。

(図/SUUMOジャーナル編集部)

(図/SUUMOジャーナル編集部)

1駅しか離れていなのに新宿駅より家賃相場が2万円以上も低い駅とは……?

ランキング上位の駅はJR山手線内の北側にある11駅に集中していた。しかし、「家賃は安いほうがいいけれど、どちらかというとJR山手線内でも南側に住むほうが都合がいい」という人もいるだろう。そんな人におすすめなのは、目黒駅~高輪ゲートウェイ駅間の5駅。この区間にランキング12位~16位が集中しているのだ。そのうち最も家賃相場が低い、12位・大崎駅をピックアップしよう。

大崎駅周辺の様子(写真/PIXTA)

大崎駅周辺の様子(写真/PIXTA)

12位・大崎駅は品川区に位置し、家賃相場は10万3000円。山手線や湘南新宿ラインなどのJR各線に加え、お台場エリアの東京テレポート駅や新木場駅に向かう、りんかい線も乗り入れている。駅の北口と南口の改札を結ぶ通路沿いには駅ナカ商業施設「Dila(ディラ)大崎」があり、ユニクロやドラッグストア、飲食店が営業中だ。そして改札を出て駅東側のペデストリアンデッキを進むと、ショッピングモールとオフィスビルからなる「ゲートシティ大崎」や「大崎ニューシティ」へ。駅西側にも同様にオフィス棟と商業棟を備えた「ThinkPark」がある。

このほかにも大崎駅周辺には近年の再開発で誕生したオフィスビルや複合ビルが立ち並び、古くからの住宅街はその外周に広がるような街並みだ。また駅西側では2025年度内の竣工を目標に、住宅や事務所、店舗、保育所などを備えた地上37階・地下3階建てのビルを建設中。この先も発展が期待できる街といえそうだ。

ここまで見てきたように、隣り合う駅同士の家賃相場は上下しつつも似たような価格帯となっている。距離的に近いエリアなのだから当然とも言える一方で、ランキングを見ると隣接する駅と比べて家賃相場が大きく下がる駅も判明。最もその開きが大きいのは、24位・新宿駅(家賃相場12万1000円)に隣接する11位・新大久保駅。家賃相場は新宿駅と比べて2万2500円も低い、9万8500円だ。新宿駅~新大久保駅間は直線距離で約1.3km、歩いても20分ほど。近距離でありながら新宿駅よりも家賃相場がグッとリーズナブルな新大久保駅は、どんな駅なのだろうか。

新大久保駅(写真/PIXTA)

新大久保駅(写真/PIXTA)

11位・新大久保駅は新宿区にあり、前述の通り1位・目白駅同様にJR山手線しか通っていない単独駅。この点も立地のわりには家賃相場が低い理由の一つかもしれない。とは言え新大久保駅から西へ5分も歩くとJR中央線・大久保駅があり、周辺住民は2路線が利用可能だ。駅周辺はさまざまな商店が立ち並んでいる。日本屈指のコリアンタウンの一つでもあり、2000年代の韓流ブームをきっかけに韓国のグッズやグルメを求めて観光客が訪れる街として知られるようになった。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

新大久保駅は桜美林大学の新宿キャンパスや早稲田大学の西早稲田キャンパスに近いこともあって現在も多くの若者でにぎわい、人気店に行列ができることも珍しくない。韓国以外もアジア諸国を中心にさまざまな国の店があって国際色豊か。観光客向きのお店だけではなく、スーパーやドラッグストアといった日常生活を支える店舗もそろっている。駅前の喧騒を離れ、10分ほど歩けば「東京都立戸山公園」へ。都心でありつつ緑に囲まれた憩いの場へふらりと行ける点も魅力だ。そして先ほど述べたように、新宿駅までも歩いて20分ほど。「新宿に住みたいけど予算オーバーだな……」というときは、新大久保駅周辺で住まいを探すという手もアリだろう。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されているJR山手線沿線の駅(掲載物件が20件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)、築年数35年以内
【データ抽出期間】2023/7~2023/12
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

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土地の価格、道が一本違うだけで大きく変わるのはなぜ? 1平米6万円差が出ることも! 「路線価図」で街あるきしてみた

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道が一本違うだけで、土地の価格が大きく変わるのはなぜ? 「路線価図」で街あるき

「交差点をはさんでこちら側とむこう側」「道が一本違うだけ」——それなのに、土地の価格が大幅に変わる。こうした不思議な現象が、街のあちこちに見られます。

なぜそんなことが起きるのか? 街をもっとよく知る手がかりとして、今回注目するのが「路線価図」。本来は持ち歩くための地図ではありませんが、住まいと街の解説者として30年以上活動する中川寛子さんは、この地図を活用して土地の価格の理由を探る「街あるき」をしています。2023年には著書『路線価図でまち歩き 土地の値段から地域を読みとく』(学芸出版社)を刊行しました。

(写真撮影/小林景太)

(写真撮影/小林景太)

「長く住む家や投資対象を探している人、街づくりに関わる人など、何か目的があって街をながめる人たちのヒントになるはず」と中川さん。路線価図を片手に、一緒に街を歩いてみました。

「路線価図」で地価の差分に注目

国税庁が毎年発行する路線価図。本来は、相続税や贈与税の算出時に参照されます。誰でもインターネット上で見ることができるデータです。

中目黒駅周辺の路線価図(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

中目黒駅周辺の路線価図(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

路線価図上では、道(路線)ごとに「1平方メートルあたりの価格」が設定されています。記されている数字は千円単位です。

たとえば、地図上の[A]に注目。「1600」と書かれた道に面する土地は、1600×1000円=1平方メートルあたり160万円。坪単価(3.3平方メートル)に変換すると、1坪あたり528万円です。

また、[B]のように、「2990」「1690」「980」「1400」と複数の路線価に囲われている土地は、物件の入口が面している道の価格を参照します。

注意点として、路線価図に記載されている数字は実際に売買される価格そのものではありません(※)。街あるきで路線価図を利用する際は、周辺の路線価を比べることでエリア傾向や道単位での差に注目するのが醍醐味となります。

※ 日本の土地価格の基準には「実勢価格」「公示地価」「基準地価」「固定資産税評価額」「相続税評価額」がある。路線価図は平成4年以降、公示地価の8割程度に評定されている。さらに、公示地価と実勢価格にも乖離がある。

実際に歩くのはなぜ?

路線価図の主な用途は、税の算出。つまり、持ち歩いて使うことはまず想定されていません。地域により縮尺も異なります。

中川さんは、土地の価格に関する記事の執筆依頼をきっかけに「土地の価格をただ比べるだけではなく、その理由を考えるべく現地を歩いてみよう」と思いつきました。2005年ごろから、さまざまなエリアで街あるきを続けているそう。

これまでの活動を通して、地形や街の成り立ち、再開発の様子など、たくさんの要素が価格に反映されることを実感している中川さん。「街の現在は地形×歴史でわかる」と話します。

ただし、いずれにしても「路線価が高ければ良い土地/低かったら悪い土地、ということではない」のが大事なポイント。個人の生活スタイルや優先事項、街づくりなどの事業目的によって、土地や住宅の価値は変わってくるからです。

中目黒から渋谷まで歩いてみる中目黒駅(写真撮影/小林景太)

中目黒駅(写真撮影/小林景太)

ということで、気持ちよく晴れた某日の午前10時、中目黒の駅前で中川さんと待ち合わせ、渋谷まで歩いてみます!

東急東横線と東京メトロ日比谷線が乗り入れる中目黒駅は、駅周辺の再開発に伴い人気が高まったエリアのひとつ。

路線価図に中川さんが散策コースを書き込んだもの。ピンク色の線が今日の道のり(画像提供/中川寛子さん)(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

路線価図に中川さんが散策コースを書き込んだもの。ピンク色の線が今日の道のり(画像提供/中川寛子さん)(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

指定された集合場所で、まずは路線価図をチェック。実はここが駅周辺で最も数値が高い場所。記された数字は「3710」……つまり1平方メートルあたり371万円。坪単価は1000万円以上に!

「平均的なトイレの面積は、だいたい0.5坪。たとえばの計算ですが、トイレ用の土地代だけで500万円くらいかかっちゃうってことですね」(中川さん)

価格と立地の関係は? 「一つのルールと二つの例外」路線価図(左)と、実際の道のり(右)(写真撮影/小林景太)(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

路線価図(左)と、実際の道のり(右)(写真撮影/小林景太)(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

ひとまず、中目黒の高台を歩くべく、渋谷とは逆方向へ。駅前の幹線道路から線路沿いの脇道へ入ります。この道は「1690」。駅前の「3710」から、一つ道を曲がっただけでいきなり数字ががくっと下がりました。

「ものを見るときは、『規則性』と『その規則性にのらないもの』に注目します。路線価図による土地と価格の関係は、大きく一つの基本的なルールと2つの例外があると考えているんです」と中川さん。

まず、基本ルールとなるのは「利便性」。
街の中心地(≒駅)から近いと土地の価格は高くなり、遠いと価格は低くなります。幹線道路沿いは価格が高く、路地に入ると低くなるのもこのルールに当てはまります。

しかし、「駅近なのに安い」「駅から遠いのに高い」というケースも。これには、次の2つの例外が関係すると中川さんは考えています。

「例外の一つ目は、住環境。環境がいいと価格は高くなります。閑静なエリアや、景観の良い土地は人気があるため高くなり、すると住宅も高級なものになっていきます。例外の二つ目は、安全性(防災)。地盤の固い土地、水害を避けやすい高台など、安全性が高いと価格は高くなっていきます」

道が一本違うと、何が違うのか

それでは、路線価を見ながら、実際の地形や土地の特徴を確かめていきましょう。

(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

住宅地の路地で、交差点を境に路線価がそれぞれ異なる箇所を発見。地図上では同じ一本の道に見えますが、「650」と「710」の区画の差は60、つまり1平方メートルあたり6万円も価格が異なります。なぜでしょうか?

(写真撮影/小林景太)

(写真撮影/小林景太)

実際に歩いてみると、理由が見えてきました。交差点から手前は道幅がせまく一方通行であるのに対し、交差点より奥は道幅が広くなっています。このように、道幅は土地の価格に大きく関わります。

面している道路の幅員によって建てられる建物の大きさは変わってきます。一般には道幅のある道路に面しているほど大きな建物が建てられるので、前面道路の道幅が広い土地ほど高くなるのです。

視界の先に渋谷の高層ビルが見える(写真撮影/小林景太)

視界の先に渋谷の高層ビルが見える(写真撮影/小林景太)

高台の住宅地を通り、渋谷方面へ。この辺りは駅から離れているにも関わらず、路線価が全体的に高いエリアです。

台地で昔はさらに眺望も良く、防災と住環境の2点から路線価が高くなっているのだと予想できます。「土地の標高も、大きな要素になる」と中川さん。

地図上の3本の道と、②の道の実際の様子(写真撮影/小林景太)(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

地図上の3本の道と、②の道の実際の様子(写真撮影/小林景太)(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

そんな台地の住宅地で、同じ方向に延びた3本の道。大通りに最も近いのは①の道ですが、最も路線価が低いのは②の道でした。「道幅に加え、行き止まりで何かあった時に避難に懸念があることが価格に影響していそうです」(中川さん)

(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

幹線道路の山手通り沿いは「1760」など高い数値がならびますが、路地を1本入ると「700」に。坪単価で300万円以上も違います。

実際に歩くと、数字上の違いと自分の感覚にもギャップを感じます。「住む分には、むしろ一本入った路地のほうが落ち着いていて良いのでは?」「日当たりを重視するならどっちだろう?」など、具体的な想像が膨らみました。

(写真撮影/小林景太)

(写真撮影/小林景太)

目黒川を渡り、渋谷方面へ。再び上り坂が続きます。

(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

(写真撮影/小林景太)

(写真撮影/小林景太)

標高約30メートル、中目黒方面にひらけた西郷山公園。この公園の近くにある3本の道はそれぞれ数メートルしか離れていないにも関わらず、路線価が異なりました。

土地の価格が高いエリアでは、下り坂や一方通行といった特徴が大きな価格差として表れます。仮にこの辺りの物件情報だけをピンポイントで見比べた場合、こうした背景までは気づけなかったかもしれません。

南平台、鉢山、鶯谷ー渋谷の地名をたどる渋谷の高層ビルに近づいてきた(写真撮影/小林景太)

渋谷の高層ビルに近づいてきた(写真撮影/小林景太)

南平台町から鉢山町、鶯谷町を通って渋谷駅に向かう(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

南平台町から鉢山町、鶯谷町を通って渋谷駅に向かう(引用/令和5年 路線価図)背景地図/© ZENRIN CO., LTD.

「南平台、鉢山、鶯谷、桜丘など、地形が反映された地名が多いのが渋谷エリアの特徴。渋谷自体も『谷』ですね。そして、中心部ほど路線価の差も大きく表れます」(中川さん)

鶯谷町の路地、川の跡だとうかがえる(写真撮影/小林景太)

鶯谷町の路地、川の跡だとうかがえる(写真撮影/小林景太)

暗渠(あんきょ)や緑道といった、かつて水路だった道は低地で比較的価格が低いことが多いそう。

「緑道ひとつとっても、景観の良さ、将来も風景が変わらないことをプラスにとらえる人がいれば、防災面を心配する人もいる。低地の物件は日当たりを気にする人にはマイナス要因でも、日中出ずっぱりの人はお買い得と感じるかもしれません」(中川さん)

再開発と土地の価格(写真撮影/小林景太)

(写真撮影/小林景太)

渋谷駅に到着。この辺りは谷状の地形をカバーするように高架の通行路を設けた開発が行われているのが見て取れます。ところで、再開発は路線価図にどのくらい影響を及ぼすのでしょうか?

「商業地はともかく、住宅地ではごく限られた周辺だけが値上がりし、それ以外には影響がほとんど及ばないケースもあります。いずれにしても、中心部以外では再開発直後に一気に路線価が跳ね上がるというより、開発前から上昇が積み重なっていき、気が付くと大きな差になっているという上がり方のほうが多いようです」(中川さん)

住みよい土地かはその人次第、街あるきで判断材料を集めよう

道中、中川さんからこんな問いかけが。

「川をはさんで2軒の住まい、ひとつは高台にある築年数の古い物件、もうひとつは低地にある新築物件。どちらを購入したいですか?」

答えはその人のライフスタイルによって変わってくるでしょう。ただ、そもそもそこがどんな土地か特徴を掴んでおくことで「思っていた環境じゃなかった」という失敗を減らせそうだなと、今回の街あるきで実感しました。何より、実際に歩くと街への解像度がぐっと高くなります。

賃貸や住宅購入に際して「実際に現地を見たほうがいい」とはいわれても、どこを見るか基準があいまいな人もいるはず。そんなとき、路線価図による街あるきは一種の判断材料になるかもしれません。目的をもって見比べることで、街の良いところや気になるポイントをぜひ見つけてみてください。

『路線価図でまち歩き 土地の値段から地域を読みとく』(学芸出版社)●取材協力
中川寛子さん
住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマに活動。2023年4月に著書『路線価図でまち歩き 土地の値段から地域を読みとく』(学芸出版社)を刊行。路線価図を手にまちを歩くガイド活動もおこなっている。

『路線価図でまち歩き 土地の値段から地域を読みとく』(学芸出版社)

元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2024/03/201563_main.jpg

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調査結果に見る新築マンション購入者の3つの属性と意識の変化。金利上昇が懸念される今後はどうなる?

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Apartment with parking. Purchase a new condominium. Condominium. 3D rendering

日銀の金融政策が転換し、ついに“金利のある時代”がやってくる。リクルートの2023年調査を見ると、首都圏の新築マンション購入者の購入物件の平均価格は、これまでよりさらに上がっている。また、三菱UFJ信託銀行の調査を見ると、デベロッパーは1年後のマンション価格が上昇すると予想している。そこで、新築マンションの購入者の変化を中心に、今後のマンション市場について市場の現状と今後はどうなっていくか見ていきたい。

【今週の住活トピック】
「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」を発表/リクルート

首都圏のローン借入額は「5000万円以上」が52.4%と過半数

リクルートの調査研究機関『SUUMOリサーチセンター』が、「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」の結果を発表した。首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)の、2023年1月~12月の新築分譲マンション購入契約者4934件の結果をまとめたもの。

まず、3つの特徴的な購入者の傾向を見てみよう。

第1の特徴は、購入世帯のライフステージ。かつては、結婚して夫婦のみか子どもがいる世帯が購入者の中心だった。しかし、2023年の結果を見ると、「子どもあり世帯」は年々減少してわずか35.0%に。次いで、「夫婦のみ世帯」30.9%が続く。逆に大きく増加したのは「シングル世帯」の19.1%(男性シングル8.1%+女性シングル11.0%)だ。なお、シングル世帯の平均年齢は男性40.3歳、女性42.0歳と、夫婦のみ世帯(33.3歳)、子どもあり世帯(37.7歳)よりも高くなっている。

分譲するマンションの価格上昇を受けて、平均購入価格も年々上昇してきたが、2023年は6033万円となり、ついに6000万円台に乗った。「6000万円以上」が40.7%を占めることが要因だ。

購入価格が高くなれば、住宅ローンの借入額も増えることになる。第2の特徴は、「借入額」の高さだ。ローンの平均借入額は5235万円だった。借入額「5000万円以上」が52.4%と、ついに過半数にまで達した影響は大きい。

ローン借入総額

ローン借入総額(ローン借入総額の回答があり、かつ金額が0円でない者/実数回答)(出典:リクルート「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」)

一方、自己資金の比率は下がった。自己資金比率が第3の特徴だ。自己資金比率の平均は21.7%だが、自己資金比率が5%未満を見ると、41.7%(「0%」17.7%+「5%未満」24.0%)もいるのだ。共働き世帯が増えて、2人で返済していくことで借入額を増やし、自己資金が少ない状況でも購入に動いていることが見て取れる。ちなみに、全額キャッシュも、わずかながら増え続けている。富裕層が購入しているからだろう。

自己資金比率

自己資金比率(実数回答)(出典:リクルート「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」)

マンション購入では資産性を意識、低金利による促進効果は低い

次に、購入者の意識の変化を見ていこう。それは「住まいの購入理由」によく表れている。

住まいの購入を思い立った理由は、「子どもや家族のため、家を持ちたいと思ったから」が最も高く36.1%。この理由は、1位が定位置の常に強い理由だ。2位は、「資産を持ちたい、資産として有利だと思ったから」(32.0%)。10年前の2013年調査では17.4%だったので、近年は購入する際に「資産性」を意識していることがうかがえる。

これに対して、「金利が低く買い時だと思ったから」は12.4%。日銀がマイナス金利政策を導入した2016年には、34.5%で2位に位置していたことと比べると、かなり減っている。金利上昇圧力が強まって、2023年に長期固定金利の【フラット35】の金利が、じわじわ上がっていたことも影響しているだろう。

購入理由(2023年調査の降順)

購入理由(3つまでの限定回答)(出典:リクルート「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」)

マンションデベロッパーの予測、価格は上昇、金利が上がったら供給戸数は減少

さて、三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部では、デベロッパーに対して半期ごとに首都圏のマンション・戸建住宅の市況について調査している。2024年1月に調査をした「2023年度下期デベロッパー調査」の結果が公表された。

マンションデベロッパーは、1年後の販売価格は現在より上昇すると予測している。特に、販売価格が高いほど上昇率も高くなると見ている。ただし、戸建住宅のデベロッパーは、1年後「1億円以上」の価格帯のほかは価格が下がると予想している。新築のマンションと戸建住宅では、今後の価格予想に違いがあるのだが、新築マンションの価格上昇は止まらないようだ。

出典:三菱UFJ信託銀行「2023年度下期デベロッパー調査」

出典:三菱UFJ信託銀行「2023年度下期デベロッパー調査」

また、「住宅ローン金利が上昇した場合(+0.5%)の市況影響」を聞いたところ、供給戸数が減り、販売価格が下落すると予想している。ただし、供給戸数への影響の方が大きくなる回答だ。「供給戸数が減少する(10%以上)」(31%)、「供給戸数が減少する(10%未満)」(46%)と、実に77%のデベロッパーは金利が上昇すると供給戸数が減少すると見ているわけだ。

住宅ローン金利が0.5%上昇した場合の供給戸数

住宅ローン金利が0.5%上昇した場合の販売価格

出典:三菱UFJ信託銀行「2023年度下期デベロッパー調査」

金利が上がっていくと専有面積が小さくなる?

では、もしローン金利が上がると、新築マンションの販売価格は下がるのだろうか? おそらく、ローン金利が0.5%も上がると購入者が借りられる額が減るので、販売価格を下げざるを得ないということだろう。

新築マンションの価格は、「土地」を買った費用と施工会社に払う「建築工事」の費用、デベロッパーが土地や建築工事の費用を金融機関から借りて支払う際の「利息」に、「宣伝や販売管理にかかる費用」が加算され、デベロッパーが自社の「利益」を上乗せして全戸の販売総額が決まる。

1年後に販売するマンションの場合、すでに土地を購入しており、施工会社を決めて建築工事の費用も決めて発注していることが多い。となると、ローン金利が上がったからといって、販売価格を変えることは簡単ではない。金利の上昇を見ながら、販売の長期化も視野に戦略を見直したり、住戸の内装や設備のグレードを下げたりといったレベルの対応しかできないだろう。

一方で、地価は上昇しているし、人件費高騰による建築工事費用の上昇も続く見込みだ。金利が上昇すれば、デベロッパーが負担する利息も増える。省エネ基準が今後ZEH水準に引き上げられることを踏まえた性能向上も必要なので、その分のコストアップもある。このようにマンションの原価は上がるので、販売価格を下げる余地はあまりない。となると、販売価格を下げるために「専有面積を小さく」して、平米単価は上がっても面積を小さくすることで各戸の販売価格を引き下げる、といった対応が増える可能性が高いだろう。

実際に、リクルートの新築マンション購入者の調査結果では、価格上昇局面で購入したマンションの面積が小さくなる傾向が見られる。2023年調査では、50~60平米の広さが前年よりも増えていた。

金利の上昇による住宅市場への影響は大きい。それでも、収入が増えれば、物価上昇や住宅価格上昇などの影響は少なくなる。つまり、これからの景気回復が本格的になるかどうかで、マンションの購入ニーズも変わり、その大きさに応じてマンションの販売価格も変わっていくのだろう。

●関連サイト
リクルート「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」
三菱UFJ信託銀行「23年度下期のデベロッパー調査」

元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2024/03/a7ffdab31f730e69b47371a773f1b296.jpg

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